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ナイル殺人事件のumisodachiのネタバレレビュー・内容・結末

ナイル殺人事件(2022年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

アガサ・クリスティ原作ポワロシリーズ、ケネス・ブラナー監督バージョン第二弾。公開が遅れに遅れてようやく公開!!

エジプトを訪れていたポワロは、友人のブークに遭遇。彼は結婚パーティに出席するため母親と共にエジプトにきていたのだった。花嫁は大富豪の令嬢リネット、花婿はハンサムなサイモン。サイモンはリネットの親友ジャクリーンの婚約者だったが、リネットと恋に落ちたのだ。幸せいっぱいの新婚カップルだったが、ストーカーと化したジャクリーンの存在に怯えてもいた。ジャクリーンから逃れるため、彼らは参列者を連れて豪華客船に乗り込むのだが……。

『ナイルに死す』の映画化だが、小説からは登場人物の数が減って設定もけっこう変わっている。とはいえ起こる事件と犯人は同じなので、このストーリーを知っている人間ならば最初から誰が犯人なのかわかって観ることになる。

前半は豪華絢爛な観光ビデオ。CGによって実物よりもキレイに再現されたエジプトの街並みや遺跡、息を呑むほど華美な衣装、いたれりつくせりのサービス付きの素敵な旅行。「こんな旅行してみたいわあ」とウットリするシーンがたっぷりと展開し、大いに楽しんだ。とはいえ、事件に入るまでの語りが長いよ!と思う人も多いだろうな……。ちなみに、事件開始までの時間が長い上に登場人物が減っているにも関わらず、各キャラクターを詳細に説明するという風でもない。この世のものとは思えないほど美しいガル・ガドットと、ゴージャスな雰囲気を強調したいだけなんだろうなという感じ。ポワロに関しては雰囲気づくりが大切だと思うので私は好感を持ったが、タルいといえばタルい。

打って変わって、事件が起きてからはけっこうなスピード感で進んでいく。事件が起きて捜査をはじめてからのポワロは超早口。今回、ある人物の前ではポワロがしどろもどろになるというおもしろ演出があるのだが、ポワロの口調の変化が作品全体のアクセントになっている。これだけではなく、『オリエント急行殺人事件』よりもポワロのキャラクターや過去に比重が置かれていいるなという印象を受けた。


【以下ネタバレあり】






















肝心の事件に関しては、これまで触れてきた『ナイルに死す』よりも感情移入しにくいなという感想。というのも、リネットがそこまで高慢に見えないのだ。各キャラクターが語る過去のリネットは鼻もちならない人物なのだが、少なくとも現在のリネットは超イヤな女というキャラではない。ものすごく美しくて、とんでもないお金持ちで、どこまでも孤独。むしろちょっと気の毒に思えるようなキャラクター設計になっているので少し後味が悪い。

また、すべてのピントを【愛】に帰結させているために、愛情要素を散りばめすぎ。原作にはない愛情関係がいくつか出てきて(そのうちのひとつがポワロ自身のもの)、やや無理やりな気がした。ほぼすべての人物の行動原理が愛だと、ちょっと単調に感じてしまうのは私だけ?

あと、もしかしたらアーミー・ハマーのスキャンダルの件で編集が変わったのかもしれないが、サイモンの人格がよくわからなかったのもマイナスポイント。殺人動機がボンヤリしてしまっていた気がする。ジャクリーンが幼い頃からリネットへ抱いていた憎しみにサイモンが引っ張られたのか(←こっちなんだろうけれど)、サイモンが異常に欲深くてジャクリーンの嫉妬心を利用したのか、どっちなのかをもっと尺を裂いて語ってほしかった。表情などからは読み取れず。リネットをマイルドにするのであれば、犯人側を冷酷に描いた方がいいと思うのだが、おそらく全員を愛情ある人物として描こうとしたんだろうな。そのせいでミステリーとしてはのっぺりしてしまったと私は感じたけれども。

とはいえ、序盤で披露されるジャクリーンとサイモンの【ほとんどセックスダンス】に代表されるように、大多数の観客が犯人を知っていることを見越した【壮大な茶番芝居】はなかなか興味深かった。エマ・マッキー、アーミー・ハマー、ガル・ガドットはもちろん、他のキャラクターも普通ではあり得ないくらいようなオーバーな演技をしていて楽しそう。なお、ガル・ガドットが美しすぎて脳内で他のキャストの印象が半分以下に減少するという異常現象が起きた。

あー、あんな豪華な船でエジプトを旅してみたいー!!どこかから10億円くらい降ってこないかなー。

それにしても、色んなことを頼まれていたのに結果的に役に立っていない上に何人も死人を出して……冷静に考えるとポワロの役立たずっぷりがすごいよね。次に映画化されるのは『ABC殺人事件』や『アクロイド殺し』あたりっぽいけど、個人的には『死との約束』あたりが観たいな。
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