ラウぺ

淪落の人/みじめな人のラウぺのレビュー・感想・評価

淪落の人/みじめな人(2018年製作の映画)
4.0
不慮の事故により下半身麻痺となった主人公の男は妻と別れ、子供もアメリカに留学して一人暮らし。身の回りの世話に外国人家政婦を雇っていたが、新たにフィリピン人の家政婦を雇うことにした。彼女はフィリピンでの離婚問題を抱えており、不本意ながらも香港で家政婦として働き始めるが、彼女には将来の夢があった・・・

車椅子の初老の男と家政婦の交流を描く本作は、『最強のふたり』に似ていますが、どちらかというとこちらは家政婦の夢の実現を男が手助けする話。
題名となっている『淪落の人』とは「落ちぶれた人」の意味とのこと。
これはともに不本意ながらどん底の状態にある主人公と家政婦のふたりのことを指しているのでしょう。
突然の事故で不自由の身となり、人生に希望を見出せなくなった主人公が家政婦の夢の実現のために尽力することで希望を見出していく、という物語は完全な王道パターンながら、それだけに最後は誰もが幸せな気分に満たされることは間違いありません。

主演のアンソニー・ウォンは香港映画に詳しい知人によれば、香港映画界にはなくてはならない存在との由。
調べてみると出演作は大変多く、確かにそのとおりなのですが、数年前の雨傘運動を支持したことから干された状態にあり、本作の出演は作品に惚れ込みノーギャラとのこと。

未知のウィルスの脅威に晒され、数ヶ月先のことすら見通せない昨今にあって、こうした幸福感に満たされる映画はどれだけ気分を癒してくれることか。
いつもより明らかにお客さんの数は少なめの劇場ですが、足を運んで良かったと、しみじみ思うのです。

しかし、蛇足ながらあえて付け加えるならば、あまりに美しい物語、語り口は控えめで穏やかなので決して嫌味にはなっていないのですが、後半畳み掛けるように訪れるエモーショナルな場面の連続に、ちょっとトッピング大目な印象も無きにしも非ず。
良い場面はここぞというところで出してこそ、その効果は最大化する、という意味では、もうちょっと少なめの方が作品は更に良くなったのではないか?という印象を持ちました。
しかし、全編に溢れる細やかな気遣いの中に女性監督らしい繊細さが滲む、清々しい良作だと思います。
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