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フェアウェルのumisodachiのレビュー・感想・評価

フェアウェル(2019年製作の映画)
3.2


小さい頃に両親と共にアメリカに渡ったビリーは、仲の良い祖母がガンで余命僅かだということを知る。本人には告知していないが、日本に住む従兄弟の結婚式を口実に親戚全員が集まるということで、ビリーも中国へ(本当は、感情が顔に出やすいからお前は来るなと止められていた)。告知しないことに疑問を抱いていたビリーだったが、祖母や親せきと時間を過ごすうちにさまざまなことを考え……。

監督の個人的な体験に基づいているという本作。西洋的な価値観と東洋的な価値観が対比されていて、繊細で心温まるヒューマンドラマに仕上がっているのだが……ううううん、これはモヤモヤする!この結末にしかなりようがないんだけど、なんとも言えないスッキリ感のなさ。

ビリーは飾らないタイプの女性で、思ったことはすぐに顔に出る。祖母は一家の長という意識が強く、包容力もあるが凝り固まった価値観の持ち主でもある。中国で時代を生き抜いてきたパワフルな女性の良い面も悪い面も持っている人物だ。ふたりの息子はそれぞれアメリカと日本に渡り、自分の元には実の妹とその娘一家しかいないが、そのことに対する不満は口にしない。肉親への愛情と信頼は絶対的で、何があっても守ろうという固い意志がある。翻って、息子の嫁や孫の嫁にはどうしても壁を作ってしまう。あたたかく受け入れてはいるが、肉親とは違うと捉えている。日本よりもさらに同族意識が強いのかなと感じた。

本人に余命宣告をしないことについて、ビリーは「人権侵害だ」と訴える。ビリーの父親も半ばそう感じていて心を痛めているのだが、伯父に「東洋では命は個人のものではなく家族のものなんだ」と説得される。説得……される?されます?私だったらそれには反論するかなー。祖母の妹が言った「祖母も夫が亡くなったときは告知しなかったんだから」というセリフの方が説得力を感じた。「東洋では」「中国では」とかさあ。自分の大切な人を【中国人その1】なんて思えないんだから、「祖母はこういう人だから」って私だったら言ってほしい。

あと、日本に渡って中国語がそんなに話せない従兄弟の結婚式を口実に皆が集まっているわけなんだが、さすがに無理があるだろというスケジュールで。たしか交際3か月で結婚だったんだけど(しかもデキ婚ではない)、不自然すぎて祖母も気付くのではないのか?「隠してるだけで本当はデキ婚なんでしょー?」と思うだろうからOKってことなのか?そして、新婦(日本人)の家族は一切登場しなかったけれど、それも不自然ではないのか?実話に基づいているらしいので実際にこうだったのかもしれないけれど、ちょっと引っかかってしまった。

と、色々と疑問点を書き連ねてはしまったが、本作に流れている空気感はとても好きだった。というのも、自分の親戚たちを思い出したんだよね。下手すれば何年も何十年も会っていないのに、集まると【親戚だなあ】と実感するあの感じ。基本的には和やかなんだけど、何かのきっかけでちょっと険悪になったりするあの空気感。なんだかすごく生々しくて、しばらく会っていない親戚たちのことが少し恋しくなってしまった。

また、それぞれのキャラクターが抱いている祖母や家族への想いや葛藤が丁寧に描かれていて、各人の人生の歩みを想像することができるのは素晴らしかった。お気に入りのキャラクターは祖母の妹。個性的なファッションも、優しくて賢いリアリストといった佇まいもかっこよかった。中国や東洋の文化や考え方が色々と出てくるが、決して揶揄する感じではないのも良かった(って、当たり前のことですけどね)。

私も実家から離れた地域に暮らしているし、兄弟と複数の従姉妹は海外にいるし(全員別の地域)、癌を患っている親戚もいるし……個人的にググっと身近に感じられる作品ではあった。懐かしさや親しみはあったのに、そこまで響かなかったのはなんでなんだろう?わからんなあ。





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