せーじ

空の青さを知る人よのせーじのレビュー・感想・評価

空の青さを知る人よ(2019年製作の映画)
3.7
234本目はシネマイクスピアリで鑑賞。
台風通過後の休日だからか、三、四割ほどの入りか。
自分よりも若い観客が中心だった気がする。

「あの花」「ここさけ」に続く、長井龍行監督、超平和バスターズ原作のオリジナルアニメーション。東京から離れた山あいの盆地にある街で暮らす姉妹と、彼女たちをとりまく周囲の人々の人間模様を描くお話。
姉妹の妹にあたるあおいが物語としては主人公にあたる存在なのだが、彼女の視点だけではなく、姉であるあかねの視点からも読み解くことができるような重層的なストーリー構造になっており、さらにキーパーソンである慎之介の「今」と「過去」の姿を映画的にファンタジックな形で浮き上がらせることで、"彼ら"と姉妹それぞれとを恋愛的な要素で結びつけるというかなり複雑なことをやってのけている。
「なりたい自分とはなんなのか」や「なりたかった自分になれたのか」ということを"四人"を通して様々な形で問うていくこの作品は、どの視点から観てもガッツリと感情移入できるような構成がしっかりと整えられており、そこは上手く出来ていると思った。

だが…後半、あおいがあかねに対して「本当はどう思っているのか」が、彼女の告白から明らかになるのだが、それがあかねにはっきりと伝わる様子を見せないまま物語が終わってしまうことに、自分はちょっと不満を感じてしまった。あかねのあおいに対する思いだけが一方的にあおいへと伝わっていくようなストーリー展開になってしまっていて、あおい自身の意地っ張りでシャイな性格も相まって、姉妹の相互理解が得られないまま、アンバランスな関係性に終始してしまうのだ。これはかなり勿体ないと思う。
また、慎之介とあおいの関係が悪いまま、和解することも無く本編が終わってしまうというのもとても気になってしまった。そのための「ギター」と「ベース」であり「イベント」だと思うのだが、それもなんだか有耶無耶にされてしまうというのも非常に勿体ない。一応エンドロールで「フォローと説明」が成されるが、姉妹の相互理解の件も含めて蛇足に感じてしまった。これを挿入するなら、きちんと「イベント」の様子も描いてくれよ、と思ってしまった。

※※

ということで、最終的にはモヤモヤがくすぶる鑑賞になってしまったのですが、作画やキャラクター造形、演者の演技などの基本的な部分は、かなりよく出来ている作品だと思います。特に主人公であるあおいさんの、常にムスッとしている表情や「何とでも言えし」「知らんがな」という喋り方は、今までにないヒロイン像を描こうとしていて良いなと思いました。
もちろんお姉さんであるあかねさんが素晴らしいのは言うまでも無く。
そのあかねさんの友達である、みちんこ氏やみちんこ氏の息子である正嗣くん、あおいさんの同級生である千佳、そしてしんのこと慎之介もキャラクターが立っていて、観ていてとても楽しかったです。
興味がある方はぜひぜひ。
せーじ

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