GodSpeed楓

イップ・マン 完結のGodSpeed楓のネタバレレビュー・内容・結末

イップ・マン 完結(2019年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

かのブルース・リーの師匠である詠春拳マスター、イップ・マンを主役に据えたシリーズの4作目にして最終作。もはや大人気シリーズなので設定については多く語る必要性が無いので割愛するが、最終作にふさわしい完成度の超傑作だった。近日公開予定の「追龍」でのクレジットでは代表作が「ローグ・ワン」とされているが、是非"ドニー・イェン(以下、ド兄)はイップマンの人!"という認識がもっと世界中に浸透してほしいものだ。

本作では死を目前に控えた晩年のイップマン役を演じているので、ちょうどよく老いたド兄がピッタリ。既に弟子のブルース・リーも十分に成長を遂げてアメリカで活躍し始めた頃の物語となっている。

遂に本格的に(過去作では本当にチョイ役だったので)参戦したブルース・リーのサービス・バトルが当然のように設けられている。あくまでゲストのくせに、やたら長い時間のバトルシーンをかっさらう姿は歴史に名を刻むだけある堂々たるものだ。ブラピにぶん投げられて車に激突した人とは思えない(シャロン・テートが生存する世界線の話だけどね)。特に敵役からヌンチャクを奪った瞬間の「待ってました!!」「きたーー!!」というような感動は抑えられるものではない。こんな素晴らしいシーンで声を出す事を我慢する必要はないので、例え映画館でも(節度を持って)感動を露わにしよう。

1作目以来の空手マンとド兄の戦いが開催されるが、1作目で「10人相手でも大丈夫!」というイナバ理論を証明しているので特に不安は無い。にしても、木多康明の格闘漫画である「喧嘩商売(稼業)」に登場する喧嘩屋・上杉均みたいな空手マスター教官の強さには驚いた。他のカンフーマスター達をほぼ一方的にボコる姿は基本的な中ボスのそれを凌駕しており、手足を凶器と化す空手の強さを十二分に映像から味わう事ができる。しかし、最後に割り込んで戦いに参戦する人物は総じて圧倒的な強さを発揮するというのがお約束(ナッパ戦の悟空を思い出してほしい。あれの事だ。)であり、空手マスター教官も格の違いを思い知るのであった。ここまで全シリーズで登場している"スーパード兄ラッシュ"(回転速度がエグい連続パンチ)を受けて亀になる姿が憐れだが、調子こいた悪役がボコられる姿を嫌いな人なんていない。しかし、この場面での"スーパード兄ラッシュ"は短く収めている。まだまだ後半に本気の"スーパード兄ラッシュ"が待っているというのが分かり、以降の期待値がグングン上がっていくだろう。

並み居るカンフーマスターを一方的にボコる事ができる空手マスターの教官より、キングオブ差別主義者の軍人が遥かに強いのは一体どういう事か。やはり戦場で命のやり取りをしている軍人の方が圧倒的に強いという価値観なのだろうか。尚、厳しい上官といえばキューブリック作品でお馴染みの"例のあの人"を真っ先に思い浮かべるが、部下の中国拳法大好き青年の名前が"ハートマン"だった。こんなところで違和感を覚えさせてくるのは、もはやキューブリックの罪だと思われる。

これが全シリーズ通しての最終戦となるので、流石にド兄も大苦戦。「3作目のタイソンの方が強そうじゃない?」というのはごもっともな指摘だが、あれは決着をつけなかったので、ド兄とは互角という位置を確立している。本作のラスボスである差別おじさんは相当怒りを買っているので、本気モードの"スーパード兄ラッシュ"を脊髄に叩き込むという、未だかつて無い殺人技を食らってしまう悲運に見舞われる。挙句に腕折り、金的、喉突きという"殺人ド兄コンボ"にはとてもじゃないが耐えられなかった。しかし、1作目でサム・ペキンバー監督も真っ青になる残酷さで話題になった(なってない)、連続スロー顔面パンチを受けた空手キッズが一番可哀想だ。彼は命令に従っただけの未来ある若者だったのに、あの10人の中で一番の被害を被ったと思われる。

本作のアクションで非常に印象に残ったのは、前半のブルース・リーのサービス・バトルと、最後の差別おじさんとの闘いで表現されていた"フェイントの使い方"だ。フェイントに反応させることで次の手を通す、というのが本来の用途だが(ブルース・リーの膝蹴りフェイントがカッコイイのだ)、最終戦でのド兄は、差別おじさんのフェイントを、"フェイントと読みきって反応しない"という超反応を見せている。「SPL/狼よ静かに死ね」(シリーズ1作目)のド兄VSウー・ジンの時のフェイント芸(?)を思い出す。あれは8割ぐらいアドリブと聞いたことがあるが、だからこそフェイントへの反応や距離の取り方がビンビンに緊張感を生んでいるのだ(監督は同じウィルソン・イップである)。
※太極拳マスターとの闘いで、一瞬だけワイヤー・パワーを使った水平飛行を披露したので、ここから"碧色の剣"を守りだすのではないか?という不安が脳裏をよぎったが、当然そんなことはなかった。

不公正という理不尽な力に対して武術で立ち向かうというスタンスを4作目まで貫いたのは本当に素晴らしい。"武術は守る力である"という事をシリーズを通して描いてきたことが、イップ・マンを皆が憧れる、尊敬できる主人公として成り立たせているのだろう。2作目でサモ・ハン・キンポー、3作目でマイク・タイソン(本人!)、本作ではブルース・リー(演じたのはチャン・クォックワン)と、毎度豪華なゲストも用意されているので、立ち位置的には1作目の村井くん(GTOの)も、同等のスーパーゲストと思って観よう。

2つの家族で描かれる、不器用ながら美しい親子愛にも感動できる。木人の使い方の見本を見せる姿が遺言のようで涙が止まらなくなった。また、人種間の壁を一瞬でも越えたかのような、白人も含めた拍手喝采にも涙腺は破壊される。僕のド兄に対する思い入れ補正も当然あると思うが、中国アクション映画でここまで感動できる作品も非常に珍しい。是非、1作目から通して鑑賞してほしい。

完結編にふさわしい幕引き。
※どうか、もうスピンオフや続編は作らないでほしい。
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