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ひとよのCozyのレビュー・感想・評価

ひとよ(2019年製作の映画)
4.0
子を守るために父を殺した母の視点ではなく、三兄弟の視点で展開されていく流れが斬新だった。佐々木蔵之介さん演じる堂下の息子との関係性、筒井真理子さんの認知症の母と向き合い方を模索していくエピソードもあいまり、最後、まさかのカーチェイスシーンで伏線回収しつつ泣かせるという点も斬新。何より、皆さん演技が上手でとても安定感がある。特に松岡茉優が今作もすごく良い。

主題は父を殺した後に諭すように子供に投げかけられた『これで自由』という言葉と捉える。
確かに母は父を殺したに違いないが、それまで暴力に耐えるだけの生活から、自ら道を切り開いていくきっかけを母に与えられたわけだ。突然であり、そこに犯罪者の子供に対する外乱も合わさって、非常に複雑な感情の整理が求められる結果、辿り着く先が三者三様で見応えがある。
個人的に鈴木亮平演じる長男がとても魅力的である。結婚し父親になると、家族が増える中で父の亡霊と対峙しなければならないのだ。
結果、感情の整理が出来ず、妻にも多くを語れない性格になってしまっている。MEGUMIが素晴らしい妻なだけに悲しく、胸をえぐられるシーンが多い。

また、面白いなと思ったのは、妻を殴ってしまう長男や、堂下の息子が道を外してしまう、いわば子は親に似るという悲しいシークエンスに対して、それを子は親の責任にするというパラドックスで対峙させている。まさに佐藤健と佐々木蔵之介のカーチェイス後のクライマックスがそれだ。とても見応えがあるし、半ばやりすぎだとも言われそうな佐々木蔵之介に対する着地をうまくまとめている。

演技面では、15年離れ離れになっていたぎこちなさに対して、其々が歩み寄ったかと思えば、また離れたりする関係がとてもリアルに表現されていて引き込まれる。また、三人ともタバコを吸うため、本来リビングで行われるような家族会議が、灰皿のある裏庭で行われるシーンが要所要所でチャプター化され、感情の整理が行われるのだが、ここの三兄弟の演技が凄く自然で印象的だった。

また、個人的に刺さったのは万引き後の田中裕子を追う佐藤健に向かって放つ、音尾さんの巻き込まれてやれよ。という言葉。不器用な愛情表現が面倒でついつい距離を置いてしまう息子に対して、的確すぎる返しでハッとさせられた。

全体として、凶悪ほどのえぐさはないし、何よりフィクションのため、見終わった後の沈む感覚はない。クスッとできるようなシュールでコミカルなシーンも多いし、それで世界観も壊れることもない。とてもバランスの取れた作品。こういう作品は長く愛されて欲しいなと思う良作だった。
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