阿飛

デッド・ドント・ダイの阿飛のレビュー・感想・評価

デッド・ドント・ダイ(2019年製作の映画)
4.0
ジム・ジャームッシュとビル・マーレイなので本気のゾンビを期待してみる人はいないと思いますが、一応書くとゆるいゾンビ映画です。
ゾンビ映画の大ファンとは言えない自分ですが、キャスティングと細かなパロディだけでも楽しめました。
ナイト・オブ・ザ・リビングデッド、というゾンビ映画の金字塔的作品を観ている人はオマージュがあるということなのでもっと楽しめるのかも知れません。

ネタバレしないように頑張って書きますが、ゾンビは現実社会への批判の象徴として用いられていて、彼らが生前執着していたものなどへの意識が結晶化したような存在として描かれます。
生きている人間が彼らに組み込まれていく様子を通じて、人間も既に消費社会の一部で自分の意思など持たずに何かに突き動かされているだけのゾンビなのだということが示される、実に痛烈な皮肉となっています。
そして、飲み込まれない者たち(つまり世捨て人と途中で空に消えるものと少年院にいた子供ですが)が社会からみた部外者であるということ、つまり構造に組み込まれていなかった人間だということでその皮肉が駄目押しされます。
監督は哲学的ゾンビだとか唯物論を下敷きにしたのかも知れません。
最後に第4の壁を思いっきり破ってきますが思い返すと冒頭で「テーマ曲だ」と言っている時点で破られているし、ある意味キアロスタミの「桜桃の味」の最後のような全ての物事の相対化というか、「映画の中だけじゃないんだぞ」というメッセージ性も感じました。

自分の意思はあるか、自分の人生か、ということを劇的に突きつけることなしに観客に意識させる作品だという点で監督の前作「パターソン」に近いものを感じました。
また監督過去作というと「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」が雰囲気的には近く、また今作に欠けているものを補完していると思います。

でもこんな細かなことを考えずに「アダム・ドライヴァーがスターウォーズについて聞かれてる」とか「この動きはカイロ・レンだ」「やっぱりビル・マーレイだ」とか思いながら脱力して、ゾンビになりながら観るのが一番楽しい映画です。
阿飛

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