阿飛

ざくろの色の阿飛のレビュー・感想・評価

ざくろの色(1971年製作の映画)
4.0
 映像美は他の方も書かれている通りです。非常に美しい。アリ・アスター監督がミッドサマーを撮影するに当たって影響を受けていたと聞きますが、人物が1地点に固定されていたりするのが若干似てるのかな...よくも悪くも人を人として扱っていない映画で、あくまで人間も舞台装置の一つです。

 観た方はわかると思いますが訳がわからないので自分の個人的解釈をつらつらと書きます。訳がわからないから映像美を褒め称えるだけというのも悲しいので...

 ジョージア生まれのアルメニアの吟遊詩人ヤサト・ノヴァの人生を描いたということですが、まずほとんど言葉のない映画です。詩人の作品すらほぼ出てこない(たまに引用される詩的なものが彼の詩だと思っているのですが、解説もないのでそれすらわかりません)。でもそれが良いのだと個人的に感じました。
 吟遊詩人は言葉を用いて、ある時は情熱的な愛、ある時は悲劇、ある時は英雄のことを、歌に乗せて伝えます。この映画も吟遊詩人についてなのだから彼の詩をふんだんに用いながら、言語で説明できる映画にしてもよかったはずです。でも、パラジャーノフはそうせず、代わりにほとんど言語化できない映画を作り上げます。この映画のどのシーンをとっても言語で説明するのには窮する筈で、映像を観た方が早い。
 世の中には言語的な世界以外のものがあるのだということが直感的にわかる、そういう映画になっていると思います。書物や文字・話し言葉(しかもアルメニア語、ジョージア語、アゼルバイジャン語)がところどころに出てくるのに、それによる説明はほぼない。説明してくれるのは「第何章」などのロシア語だけです。そういう別世界感。それを楽しむ映画なのではないかなと思います(彼が当時ソ連で冷遇されていた事実から言語化できないところで戦っていたと考え始めると胡散臭くなってくるのでやめます)。

 そして学生が習作として撮ったような感じがしてもおかしくないのに、最終的にまとまっているという不思議。人の一生が摩訶不思議にまとめられているという点で、クストリッツアとかホドロフスキーを感じました。
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