阿飛

ザ・ファイブ・ブラッズの阿飛のレビュー・感想・評価

ザ・ファイブ・ブラッズ(2020年製作の映画)
4.0
時勢に沿ったスパイク・リー映画。
George Floydの件で再び注目されているアメリカの影に過去から光を照らす作品...ではありますが鋭いスポットライトのような光ではなくてぼやけた散発的な光であるように感じました。
冒頭に見られる歴史的事実のコラージュのように、人種問題についてもコラージュ的に散りばめられている。決して一つの問題を徹底的に突き詰めるということはなく、それぞれの意識提起を促す側面が非常に強いかなと思います。
そのせいで、観ている側としてはなんとなくぼんやりとしたような、要素が多すぎて若干まとまりのないような感想を抱くのも仕方ないのかなと思います。
また、前提知識がいくつか必要にもなる(ヴェトナム戦争の基本的な構図、マルコムXとキング牧師の立場、現在のアメリカにおけるトランプ支持者層理解...MAGA帽子のシンボル性など)というのも余計にそのややこしさに輪をかけているかもしれません。

しかし、その点を補って余りある力強い演技が映画の駆動力となって独特のテンポでストーリーを進めていきます。
あの強い不安定な登場人物たちが、結局は「人間は脅威になりうる」「暴力の前に正しさなど無用」という圧倒的な事実を思い知らせてくれます。

でも、この映画のもっとも価値のある側面は − なぜこの部分に関するレビューをどこでも見かけないのかと感じますが − マーヴィン・ゲイの音楽をこの世に復活させたということだと思っています。
What's going onからの数々の名曲をいま聴く機会を与えてくれていることがもっとも重要なことだと思うのです。
(アメリカでは有名すぎて特段映画でプッシュされなくてもという事情などあるのでしょうか...)

アメリカでのレビューもいくつか読みましたが、このご時世にこの映画のレビューをするのはなかなか苦心するでしょうね。
そのせいか、演技等を絶賛し、ストーリー等についてはばっくりと讃えるタイプのレビューが多いように感じました。

事前に地獄の黙示録を観ていると、監督の映画愛を感じることができます。
ヴェトナム戦争とその当時のアメリカの国内情勢についてより知りたければ、同じくNetflixに上がっているVietnam War(全10話のドキュメンタリー)を観るのがおすすめです。計20時間弱となかなか長いですが、観る価値はあると考えます。
阿飛

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