阿飛

フラワーズ・オブ・シャンハイの阿飛のレビュー・感想・評価

3.8
花樣年華好きなら。
リー・ピンビン(クリストファードイルと花樣年華を撮影)とトニー・レオンを侯孝賢が料理するとどうなるか、気になる人は見てみても損はない。
時系列的にはこの作品が撮られたのが先です。

ストーリーは多分あまり追う必要はなくて、どちらかというと作品に漂う気だるさのようなものを吸って楽しむものです。メッセージ性も探せば見つかると思いますが、清末の上海の花街を舞台に繰り広げられた人情劇を切り取ってドキュメンタリーを作った、という感じがします。切り取っているので始めと終わりも特に用意されていません。
侯孝賢はたまにドキュメンタリー風の歴史物を撮っているので、そちらの作風に近いのかな。

この映画、ずっと重い雰囲気が漂っていて、それは映画や登場人物のせいだけではなくて、そもそも清末がそういう時代だったからかと思います。原作も清末に実際に書かれたものです。
アヘン戦争に敗れ、香港割譲、複数都市の開港など徐々に勢いを削がれていった清の晩年のエリートである主人公は、本来であればもっと輝かしい人生を送れていたはず。プライベートでもうまくいかなくて、でも自分の気持ちもうまく話せないし、周りとの言語的・文化的差もあって(上海語・広東語)疎外感が否めず、そのはけ口がアヘンくらいしかないという湿ったらしさをトニー・レオンがうまく演じていて、その鬱屈としたストレスの蓄積を見ていると結構不安になれます。

アヘンに溺れるやる気を削がれた人間というと、「覇王別姫」で震えるほどの名演を見せたレスリー・チャンを思い出します。
あれはこの作品よりもさらに後の時代の中国を描いていますが、興味がある方は観てみてください。
阿飛

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