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パラサイト 半地下の家族のsugar708のレビュー・感想・評価

パラサイト 半地下の家族(2019年製作の映画)
4.3
山水画のように幽玄で、64年ぶりのパルムドール&アカデミー作品賞W受賞をした怪作は映画史に名を刻むか?

個人的にカンヌ国際映画祭とアカデミー賞は作品のベクトルが違うような気がするんですよね。ましてや、アカデミー賞は国際映画祭ではなくアメリカ、ハリウッドのための映画祭。だから、本作がW受賞をしたニュースを見た時に激震が走ったのを覚えています。

その背景にはハリウッドでもただのエンターテインメントではなく社会的なメッセージを入れないと評価されない状況や、多様性が求められるダイバーシティな時代、アカデミー賞会員の比率が変わったとか様々な要因もあるのかもしれませんが、本作品が社会風刺とエンターテインメントの両立を見事に成立させた名作であるのは間違いないと思います。

この映画は前半と後半で様相がガラッと変わる二面性も高く評価されていますが、個人的にはコメディ要素の強い前半部分の何もかも本音で話す見た目は貧しいがどこか幸せそうなキム家と裕福で幸せに見えて全員が心の中で何を考えているかわからないパク家の不穏な空気、緊張と緩和の対比が実に面白かったです。

半地下に住む貧民層のキム家と丘の上に住む富裕層のパク家。日本でも湊かなえさんの「夜行観覧車」などの作品があるように高低差が貧富の差やマウンティングに繋がるというのは万国共通の認識なのだろうなと。

また、本作ではシンボルとなる小物などの登場のさせ方や隠喩が効果的でわかりやすいのも特徴的だと思います。その象徴が山水景石だとすると、本作は山水画に例えることが出来るのかもしれません。石や丘の上、差し込む光は“陽”を、雨や血、地下などは“陰”を表していて、そう考えるとキム・ギテクの言う「ノープラン」はある意味で道教の無為自然の思想に近いものなのでしょう。

先住民として土地を追われたインディアンのコスプレもパラサイトするキム家と現在、世界各地で起きている移民問題を関連付けているように見えました。どんなに取り繕っても臭いだけは消すことが出来ない、それはその人の本質であり彼らの運命を暗示しているとすれば、ギテクは全てを悟ってあの行動を取ったと考えられます。

吉祥や救済を意味する“桃”は一体誰に対するものだったのか。キム・ギウは夢見た桃源郷へ辿り着くことが出来るのでしょうか。
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