小松屋たから

あなたの名前を呼べたならの小松屋たからのレビュー・感想・評価

あなたの名前を呼べたなら(2018年製作の映画)
3.9
この邦題は実に良く練られているけれど、観終わってみると、原題の「SIR」が素敵だったこともわかる。

ラブストーリーって、いかに「障壁」を築くか、そして、それがいかにリアルに観客の胸に迫ってくるかという設定を考えるのが、作り手の腕の見せどころなのかなと思うが、なるほど、表向きは無くなったとされるカースト制度、身分差別、男尊女卑に満ちた農村部の因習が根強く残り、経済格差が拡大している今のインドって、それにふさわしい舞台だったんだ、と教えられた。

20歳にもならないうちに人生を捨てなければならなくなったヒロイン・ラトナが、都会に出て、仕事を得て、恋をして、どんどん生き生きとして綺麗になっていく様は、まさに、今のインドの女性像を象徴しているのかも。メイド仲間や妹とのやりとりなどは、時にシビアながらも温かい気持ちにさせてくれる。

一方のお金持ちの雇い主・アシュヴィンの方はちょっと頼りないけれど、最後に精いっぱいのことをしたし、間違いなく好きになれるキャラクターだった。最初は自分にとって空気同然だったラトナの存在が、彼の中でどんどん大きくなっていく過程の数々の振る舞いはいかにも「甘いおぼっちゃま」だけれど、応援したくなるような風情があった。

スクリプターの問題なのか、編集が雑なのか、ところどころシーンのつなぎが乱暴だったり、同じシーンなのにカットが変わると人物の位置が変わっていたりと、何か自主映画的な未熟さも感じたが、閉ざされた空間での二人の距離の取り方、様々に供される食事の豊かさ、市場に並ぶ布切れや商品の色鮮やかさ、そして「これから発展する国」という街全体から溢れるエネルギーが、目も耳も十分楽しませてくれました。