阿飛

あなたの名前を呼べたならの阿飛のレビュー・感想・評価

あなたの名前を呼べたなら(2018年製作の映画)
4.0
とても抑制のきいたタッチの美しい映画です。
決して派手さは無いけれど、小物を愛せるひとならきっと好きなはず。

マンションのシーンにしても壁の色から調度品まで一つ一つが涼しげに統一されていて目に優しいです。
ラトナの部屋、旦那様の部屋、キッチン、それぞれの空間がそこにいた人の気配をしっかり残していて、だからこそ不在時の寂しさが出ますね。

個人的に好きだったのはラトナの描かれ方。
田舎出身の召使いと都会のおぼっちゃまという構図でありがちな「少し抜けた、向こう見ずな」女の子という登場人物ではなくて、周りの状況を見て、ものを考え、タイミングをみて意見をいう、大人な女性としての描かれ方です。
だからこそ、ラトナがお祭りのシーンで見せる少女のような笑顔にドキッとします。

これが現代インドだ、自立した女性なんだというような安直な主張ではなくて、アマルティア・センが「議論好きなインド人」で描いたようなインドの人々の深さを描くような作品に今後も繋がっていくことをとても期待しています。
「裁き」も同じ系譜でよかったなあと連鎖的に思い出したのですが調べてみるとアシュヴィン役のVivek Gomberは弁護士役で出てたのね。
そちらも今後が楽しみです。

女性が新たな世界を知って喜びをこぼす瞬間の描写として、乗り物に乗って新しいところに行ってみるというのが王道としてあるなと思い、こういうシーン好きなんだよなと他の作品を思い出そうとしたのですが、結局ローマの休日のベスパしか出て来ずモヤモヤ。
しかもローマの休日の「男に連れ出される」というのとこちらの「同じ家政婦さん仲間に連れて行ってもらう」というのとでは構図も結構違うなと。
ただどちらも美しいものですよね。
阿飛

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