銀色のファクシミリ

罪の声の銀色のファクシミリのレビュー・感想・評価

罪の声(2020年製作の映画)
4.8
『#罪の声』(2020/日)
劇場にて。原作未読。年間ベスト級の作品であり、サスペンスジャンルでは10年に1作の年代代表レベルの傑作だと思います。この先、配信でもレンタルでも長く大事にされるだろう新たなクラシック。まるでグリコ・森永事件の「真相」を観ているようなリアルな物語でした。

あらすじなしで感想。作中では「ギンガ・萬堂事件」とされていますが、これはそのまま昭和59年から60年にかけて起こされた食品会社への連続恐喝事件「グリコ・森永事件」のこと。そして事件から35年後に事件を追う二人の男が主人公。一人は事件の再取材担当になった新聞記者・阿久津(小栗旬)。

もう一人は、京都で紳士服店を営む曽根(星野源)。彼は父の遺品から手帖とカセットテープを見つけていた。テープの声は幼い頃の自分だったが、内容は意味不明だった。しかし手帖から得た手掛かりから、それが「ギンガ・萬堂事件」での犯人側の指示音声だと気がつく。彼は犯人に利用された子供だった。

二人がそれぞれ事件を調べ始めると、物語はラストまで息つく暇なく一気。この作品の一番素晴らしいところは「謎の提示と解明、そして新たな謎の発生」のサイクルが絶妙なところ。調査の過程で真相の断片を拾い、一歩一歩、事件の闇を明かしていく物語なのにまったくダレない。

「事件の真相」という大きな謎を追いながら、どこで二人の調査の線が重なるのか、過去に怯える男と過去を暴こうとしている男は、どうやって行動を共にしていくのか、というサブストーリーも魅力的。

加えて「新聞記者」と「事件の関係者」という間柄を超え、二人が調査の中で洗い出してきた「声を犯人に使われた、あと二人いる子供を探し出したい」という共通の想いを持つ同志になっていくシーンが素晴らしい。

映画構成でいう「旅の仲間のたき火のシーン」、旅を共にしてきた者達が決戦の前夜にたき火を囲んで心中をさらけ出し、より同志になるシーンですが、この物語では移動中の休憩のシーン。直接的な事件の会話ではないのに二人の同志感が強まったのがよく分かる。この物語で一番好きなシーンです。

さらに終盤で二つの「落とし前」をつけるのがとても良き。この事件の諸相を知り、真犯人に辿り着き、その動機を知る。しかし同時にその動機と起こした犯罪から生まれた矛盾を突きつける。時効になった事件の「解決編」として納得の結末でした。

もう一つの「落とし前」は、この事件とマスコミの関わり方。犯人は企業に脅迫状を送るだけではなく、新聞各社にも挑戦状を出していた。そしてマスコミは「スクープ合戦」「話題のニュースに飛びつく」という、崇高な理念とは真逆の習性を犯人に利用され、大々的に事件を報じた。

犯人に利用され振り回され、ある意味では事件が未解決で終わることに協力してしまった。マスコミの忸怩たる思いの体現者が、小栗旬が演じる阿久津。彼は元々社会部に籍を置く敏腕事件記者だったが、崇高な理念とかけ離れた職務に摩耗し、文化部に移った人物。

今回の事件取材中にも「平穏に過ごす人々の過去を暴く意義」に嫌気が差し、上司に明かすものの「ジャーナリズム本来の役割を全うしたいなら、お前がそれを示せ」と激を飛ばされる。阿久津はこの取材の旅の果てに「ジャーナリストの落とし前」をどうつけるのか。この物語も良きでした。感想オシマイ。

追記。この作品で注目は原菜乃華。すでに主演映画『#はらはらなのか。』、メインキャストの『#無限ファンデーション』という作品があり、どちらも役の重さにふさわしい好演を見せているのですが、「『#罪の声』のあの子」というのも名刺代わりになる新たな代表作になったと思います。追記もオシマイ。