みや

罪の声のみやのネタバレレビュー・内容・結末

罪の声(2020年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

平成末期、30年以上前の未解決事件を追う新聞記者は、犯行グループが脅迫テープに3人の子どもの声を使用したことに着目する。京都でテーラーを営む男は、父の遺品のカセットテープが昭和最大の未解決事件で使用された脅迫テープと同じ物であり、それが幼い頃の自分の声だと気付く。

原作は塩田武士の同名小説。未読。著者の他作品が面白かったので鑑賞した。
1984年に実際に起きたグリコ・森永事件をモチーフにしている。事件自体を詳しく知らないので、どこまで史実か分からない。90通を超える脅迫状、子供の声による脅迫テープ、6社を脅すだけでなく実際に社長を誘拐する。規模の大きな劇場型犯罪にワクワクした。すごい。
株の操作が目的というのは定説なのだろうか。誘拐ミステリではリスクが大きい身代金の交換が醍醐味の一つでもあるから、斬新な発想に驚かされた。

実際の事件だから、この世界のどこかに犯人たちが実際にいて、脅迫テープに声を吹き込んだ子供たちも実際に存在する。この映画と同じように、その子も大人になってから、ふとした偶然で自分の声だと気付いたら…と想像したら怖すぎた。
子どもの声は無邪気で可愛らしい癒し効果がある一方で、得体の知れない薄気味悪さもある。曽根さんが2つの声を聴き比べた場面でゾッとした。
もう一組の姉弟の人生も可哀想すぎる。酷すぎるよ。生き残った男の子の悲惨な人生を聞いた直後に「あなたは?」と訊かれた時、私は何も関係ないのに罪悪感が半端なかった。

技術で情報を掴み取っていく記者、悲痛な訴えで真実を教わっていくテーラー。別方向から迫っていく描き方が巧かった。
なかなかに重大なことであるはずなのに、従業員にあっさり手帳を見せたり、家族の前で怪しい伯父について訊いたり、秘密漏洩が著しい。無防備すぎない?と最初は違和感を覚えたが、それだけ切羽詰まっていることの表れなのかも。当時の関係者たちも簡単にぽろぽろ喋ってくれて呆気なさはあるものの、みんなずっと心の中に抱えて吐き出せる時を待っていたように感じた。女の子の親友との約束が切ない。
次から次へと人が出てくるし、過去と現在が入り乱れているのに、ごちゃごちゃになることなく楽しめた。

国や社会、権利への怒り。私の今までの人生では経験したことが無い感情だから、どうしてもピンと来ない。映像と文字でしか知らない学生運動の熱を体感してみたかった。

とてもとても面白かったので原作も絶対読みたい。
みや

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