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燃ゆる女の肖像のRのレビュー・感想・評価

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
4.7
すごい映画だった。見終わったあとの感動を言葉にするのがとても難しい。が、初めから思い返してみよう。正直、前半は、あれ、期待してたのと違う、と思ってました。マリアンヌという若き画家が、貴族の娘エロイーズの結婚のため、肖像画を描く仕事を受けるのだが、エロイーズは描かれるのを望んでおらぬため、マリアンヌはアイデンティティを隠して、散歩のお連れ役としてエロイーズに近づき、観察する。観察して記憶に残し、記憶からエロイーズの肖像を描こうとする。画面は薄暗く、会話はない、音楽もなければ、動きも少ない、鑑賞のために早起きしなければならなかったボクは、少々眠気を感じたが、その感覚はある意味間違ってなかったのかなと思う。18世紀ヨーロッパで女たちを縛りつけていた慣習としきたりに、全き不幸を感じていたエロイーズは、決して感情を外に出さず、よってマリアンヌにとってエロイーズの完全な肖像画を描くことは無理に等しい仕事だった。ふたりとも面白くない状況が延々と続くのである、そりゃ見てるこっちもつまらない。が、映画の途中でエロイーズが微妙なる変化を見せ、まさかの発言をするあたりから、奥深くでエモーションが動き始める。見つめる側が、同時に見つめられる側であることに気づく瞬間のスリリングさ! そして、少しずつ、少しずつ、エロイーズは感情を見せはじめる。マリアンヌが、前任画家によるエロイーズの肖像を火に焚べると、心が燃え始める。そのほのおは、ひと時の自由を得た女たちのシンボリックな夜のシーンで大きく燃え上がり、エロイーズに燃え移る。からの洞窟シーンはほんとドキドキした。もうひとり、重要な人物が、使用人のソフィー。彼女は、ふたりをさらに深く結びつける役割を、女として最大の悲劇をもって、果たすのである。それは男の支配への女の決死の抵抗でもある。悲しすぎる抵抗である。そういえば本作には男が不在、とくに後半は、女たちのシェルのなかだけでお話が展開する。優しく、柔らかく、あたたかく、湿った官能のなかで、悦びを感じる、それが観る側にもじわじわ伝わって、いつの間にか、眠気を忘れて画面に見入っていた。画は完成に近づく。画の完成が意味すること…それは……ってときに、うつくしきシェルに俄然、破壊的異物が侵入してくる。そのグロテスクさは衝撃的で、心乱される。そして哀しきギリシャ神話のマテリアライズ……すべてマリアンヌの回想シーンで構成される本作。回想のエンディングはどれも鳥肌が立つほど強烈で唐突で繊細だった。素晴らしかった。この映画のオープニングではピアノレッスンを思い出したが、エンディングでは君の名前で僕を呼んで、を思い出した、男性支配への女の抵抗と規範外の愛の強烈さに心打たれた。相手がどんな性であれ、愛の形は同じ、と言っている人をときおり見かけるが、ボクにとってはまったく同じに見えない。たしかに大きく人間として括ると同じなのだが、男と女の間にそもそも先天的な差別があるように、愛の形にも当然相応の差別があるとボクは思う。男と男は単純で純粋で一線を超えると体当たりで分かりやすい、男と女は社会的慣習の過度の侵入により不純で不安定でしばしば軽薄。これが女と女となると、一層ピュアかつ複雑、甘美で、力強く、情念も深い。世界の不条理のなかで、女が女であるがゆえなのだろう。ボクは男であるため、女が女であることの意味を直接実感することはできない。けれど、この映画を見ると、その意味を少なからず垣間見ることができる。さて、本作最大のクライマックスとなるラストシーン。全身に電撃が走るラストシーン。見終わった直後は、何がこんなにガツンと来たのかよく分からないまま、エモーションの高まりにただただ感動していた。が、あとあと考えると、この感動は選択の問題だったのだ。Poetか。Loverか。一瞬か。永遠か。彼女はどちらを選ぶのか。そのサスペンスに心奪われていたのだね。自分ならどっちを選ぶだろう。いやー、もう、何とか別の方法はないもんですか、って思っちゃうよね。一度火がつくと消せないどころか燃え広がって、往生際わるすぎるメンヘラなので、見ててホントつらかったーーーぐはーーーー! ちなみに一緒に見に行ったベイブも、最初は鬼眠かったけど後半は面白かった!って言うてはりました。見終わって話してるときエロイーズのことをエロイズムって言ってて爆笑🤣🤣🤣 で、いろいろ話してるうち、この映画の凄さにしみじみ感じ入ってしまいました。めちゃくちゃ面白い映画だった! はやくもう一回見たい! 次見たら⭐️5になりそう! 最後に。日本の女の人たちも、一刻も早くオブジェクト状態から抜け出してほしいと願ってやみません。オブジェクト化に加担してる人も多いけど、ほんとやめたほうがいいと思う。まだまだ書き足りないが既に長いのでやめておこ。
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