せーじ

スペシャルアクターズのせーじのレビュー・感想・評価

スペシャルアクターズ(2019年製作の映画)
3.7
240本目はシネマイクスピアリで鑑賞。
残念ながらそこまで客入りが多かった訳ではなく。その分、笑う気満々で作品に挑むことが出来た気がする。

「カメラを止めるな!」の上田慎一郎監督があの作品のヒット後、ふたたび長編を手掛けるということで、ちょくちょくラジオ番組などでその制作過程の一端を知りつつ、自分としてはどういう作品になるのか興味津々だったのだが。。。

うん…まおも?(©Marikuriさん)
まぁまぁ、そこそこ、面白かったです。

(※以下、お話の構造などに触れますので、どうしてもネタバレ抜きで観たい!と思っている方は引き返すか※※のところまで読み飛ばすかされることをおすすめします)





まず、お話の構造的には「マトリョーシカ」みたいだな、と。
「演じる」ということをフックにして、マトリョーシカの様に何重にもその前提をブラフで外していくような構造なので、一歩間違えると際限のない後出しじゃんけんみたいになってしまいかねないストーリー構造なのだが、プロットそのものはそうならない様にうまく作られていると思った。一か所でも矛盾があると成り立たなくなってしまう作りなのだが、そこはきちんとそうはならないように作られていたと思う。また、「主人公がボンクラで、自分の能力を使って怪しい宗教団体に狙われている旅館を助ける」と聞くと、自分は堤幸彦監督のドラマシリーズ「TRICK」を思い浮かべてしまうのだが、あれよりかはきちんと笑いをストーリー展開に落とし込んで作ろうとしていたので、笑いの取り方はかなりベタなやり方だったけれども、そこも別に気にはならなかった。確かに何人かのフォロワーさん達が指摘するように、演技だったり全体のルックスがチープだと言えばそうなのかもしれないが、逆にこの作品は、そのチープさを作品そのもののコンセプトに活かしていくような作りにしようとしていたので、個人的には好感を持つことが出来、頑張っているのではないかなぁと感じることが出来た。

ただ…

この手の作品で一番面白くなるであろう、クライマックスにおいての「絶体絶命なピンチからの逆転していくくだり」が割と凡庸で、きちんとカタルシスを産んでいないように思えてしまった。本来はボンクラな主人公がなけなしの勇気をアッセンブルして、ダメな部分を豪快にぶち破るからこそスカッとすることができるはずなのだが、ストーリー展開の矛盾を気にするがあまり、そこらへんのロジックが割とおざなりになってしまっているのだ。その結果、BeforeとAfterが"ぱっと見"そんなに変わっていないように見えてしまっている(つまり成長していないように見えてしまう)というのは、作品のコンセプトを考えると、明らかに問題だったのではないだろうか。
で、その後にエンディングのくだりが無造作に被さるので、そこに理屈があっても、尚更それまでのあれやこれやが全部どうでも良く感じられてしまうのではないだろうかと思う。

「カメラを止めるな!」では、あのプロット構造そのものがウケたというよりも、それを成立させようとする「情熱が約束を守る」プロセスの熱さが面白さに繋がったからウケたのではないだろうかと自分は思っている。今作はプロットの構造を守ろうとする力が働きすぎて、そういう言葉では表現し得ないものが弱まってしまっている様に感じられてしまった。どうせフィクショナルな舞台立てなのだから、もっとフィクショナルなエモーションをストレートにぶつけてしまっても良かったのではないだろうか。そのあたりが非常に勿体ないなと思う。

※※

とはいえ全体的には"まおも"で、笑えるシーンもきちんと用意されており、役者陣それぞれの技量はともかくとして、様々なタイプの役者さんの演技が堪能できる作品になっているのではないだろうかと思います。
結構不満を書いてしまっていますが、好きか嫌いかで言うと好きです、この作品。色々と言われているようですが、作り手の志というか心意気は充分伝わってくる作品だと思います。何より、主人公のボンクラさが個人的にはツボでしたね。あの作品を観る為だけにVHSのビデオデッキを持ち続けているって、なかなかにハードコアなボンクラなのではないかと思います。好きなんだなっていう。
興味のある方はぜひ。
せーじ

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