踊る猫

カセットテープ・ダイアリーズの踊る猫のレビュー・感想・評価

4.2
実に渋いところを突いてくる作品だと思う。プロテスト・ソングに目覚めて自分も創作を始めるというパターンならありふれているが、そのきっかけがボス(ブルース・スプリングスティーン)とは。時代背景も現実を無視した享楽的な気分に浮かれていた80年代後半に設定され、かたやティファニーやデビー・ギブソンを聴き浮かれている(「シンセは未来」!)クラスメイト。こなたボスに入れ込む主人公やザ・スミス好きを匂わせるガールフレンド。彼らが共通して持っている悩みは「父との葛藤」であり、それを単純な「絶縁」で解消するのではなく、「おもねる」方向に持っていくのでもない実に柔軟な解決策がこの映画では模索される。だが、だからといって父を単純に絶対悪と描いているわけではないところも拾っておきたい(父が妻を連れて宝石屋に自分の財産を売り渡す場面!)。「鉄の女」が君臨し、失業者が街に溢れた80年代後半の地獄をパーソナルな次元でもろに食らい、しかもパキスタン出身の移民であるが故の差別に苦しめられているところも丹念に描かれている、その下地があってこその渋いメッセージが胸を打つ。
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