銀色のファクシミリ

ソワレの銀色のファクシミリのレビュー・感想・評価

ソワレ(2020年製作の映画)
4.8
『#ソワレ』(2020/日)
劇場にて。明日なき逃避行。その始まりに彼はなにを思い、その彼に彼女はなにを見たのか。その果てに彼女はなにを思い、その彼女に彼はなにを見たのか。未来なき旅路になんの意味があるのか。それを描く111分。年間ベスト級の傑作でした。

あらすじ。俳優になる夢を抱いて上京した青年、岩松翔太(村上虹郎)。しかし思うようにいかず行き詰まっていた。そんな時、翔太がいる劇団が和歌山の高齢者施設で演技指導する話があり、彼もメンバーとして帯同する。そして訪れた施設で運命の女性・山下タカラ(芋生悠)と出会った。

感想。翔太とタカラ、逃避行への動機はそれぞれで、そしてその動機とは別の自分と対面する。翔太は不甲斐なさからの自己回復。しかし低きに流れるような選択の繰り返しで、目を背けたい不甲斐なさこそが自分自身だと思い知らされる。

そしてタカラはただ隠れたかった。しかし入所している老人の言葉に今の我が身を重ねて揺れたように、あの事が起きる以前から彼女は外に出たかった。そしてたとえどんな理由であれタカラは外の空気を吸った。苦しみと悲しみばかりだとしても外の空気は彼女を変えてゆく。

そしてタカラのラストと翔太のラストで浮かびあがる、この旅路のもう一筋の物語。この一筋がここまでの物語にさらなる厚みをもたせ、ラスト以降の翔太の物語に「ソワレ(夕方、演劇では夜の公演)」という意味をもたせたと思います。2020年ベストラストシーン賞作品。感想オシマイ。