ひこくろ

FUNAN フナンのひこくろのレビュー・感想・評価

FUNAN フナン(2018年製作の映画)
4.5
これは地獄だ、と強く思った。

カンボジアの歴史に詳しくないので、クメール・ルージュという名前ぐらいしか知らなかったが、現実にこんなことが行われていたのかと愕然とした。
革命軍により、人々は一方的に土地を追われ、財産もすべて没収される。
革命のために、と強制労働を強いられ、食事もろくに与えられない。
それどころか、はぐれてしまった幼い息子を探しに行くことすら許されない。

抵抗することも逃げることもできない。
歯向かえば殺される。女たちは犯される。
この状況がいつ終わるとも知らず、延々と続く。
本当に地獄としか言いようがない。

クンとチョウの夫婦は、はぐれてしまった三歳の息子、ソヴァンを探し続ける。
と言っても、土地を離れることを許されないので、できることは少ない。
ただ空しく時だけが流れていく。
周りの仲間は次々と消えていき、二人も心身ともにボロボロになっていく。

当然だ。
何ひとつ自由がない地獄は、人の生きる気力さえも奪っていくからだ。
わずかな救いもたまには起こる。
革命組織に入ったいとこが心変わりしたり、組織の男に媚びを売って生き抜く女が助けてくれたり。
でも、そういったことすらも、結局はすべて無になっていく。

尊厳を奪われた人々は、ただ生き残ることだけに必死にならざるを得ない。
チョウの母親が誇りを捨てて仇のほどこしたご飯にかぶりつくシーンなど、あまりに苦しかった。
そのなかで、クンとチョウの二人だけが「息子を見つけだす」ことを心の頼りに、尊厳を守り抜こうとする。
その姿に胸が熱くなってどうしようもなかった。

わずか90分弱の映画なのに、重く苦しいものがずっしりと残る。
まだ心が痛い。
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