新潟の映画野郎らりほう

異端の鳥の新潟の映画野郎らりほうのレビュー・感想・評価

異端の鳥(2019年製作の映画)
4.2
【神話、或いは根源なる人の貌】


モノクロームなルックが 始源且つ無装飾な印象を与え、極少の科白に依る寡黙性が ドラマを諦観と絶念に満たしてゆく。

パノラマで捉えられる人の気配無き山河の美しさ。(特に冒頭から前半部の)無時代性。祭祀儀礼。人工物無き草原に於ける一糸纏わぬ愛慾への耽溺。禍々しき異種交配(異類婚姻譚)。理不尽な被加虐性―。

それらを鑑み 辿り着くは、やはり〈神話〉である。

直情径行、短気癇性な残虐性。
睾丸を眼窩より刳り出す様なぞ 正にギリシャ神話等のそれである。



何故古代神話の神々は、斯くも直情残虐で 淫蕩且つ理不尽に拘わらず、神として敬されるか。
それはそれが 人の本来的な貌を示しているからだろう。

人は自らの残虐性から眼を逸らし 転嫁/封印する為に「他人事」として神話化し、敬して遠ざけた(畏敬)。
文化/文明 ― それら虚飾を身に纏い、いくら品行方正/清廉潔白を蒲魚ぶろうが、人間の根源的貌は古代神そのものである。


数千年の抑制から解き放たれた太古よりの残虐性。
犯し、殺し、燃やす ― 根源的貌に立ち返りし加虐者達は、一様に慶びの表情を浮かべていた。



人は 戦争/残虐性の方に 先天的/本質的に傾いている。
神話を、他人事寓話にするなかれ。お前自身の話なのだと。




《劇場観賞》