偽名祐司

異端の鳥の偽名祐司のレビュー・感想・評価

異端の鳥(2019年製作の映画)
4.2
ポーランドの禁書を数年かけて映像化したモノクロ映画。
ポスターのインパクトよ。
何語か分からないラストの歌が妙に心に刺さりました

話はアプリ参照で。
第二次世界大戦時、東欧のどこか。
恐らく家族から一人引き離され疎開した少年。
彼は年老いた叔母と二人で暮らしていたが一人家を出る事になる。
家族の元にと思い孤独に旅をする少年が目にし、巻き込まれ体験する、地獄のような暴力、差別、獣欲、憎悪、生死。
少年の旅の終着点は何処なのか。

初手で始まるペットらしき動物の処分がエグイ。
と思ったらそんなものは気にならない程の地獄絵図が待っていました。

超絶説明少ない系ですので言葉の端端から伝わる情報で補完していく必要があるのですが医療に魔術が信じられる程の時代、もっと言えば第二次世界大戦時、東欧というかソ連近く。
少年は名前も呼ばれませんが物語開始時は10歳前後、恐らくユダヤ系?であるという事が分かります。

基本的に少年が旅する上で関わっていく人の名前で章立てされてる構成。関わり方は本当に様々なのでどうとは言いませんが、基本地獄めぐりと思っておいて下さい。

ひたすら描かれるのは上記の情報が気にならなくなる程の普通の人間が見せる残虐さ。
異端に対し、人はここまで無関心に無表情に残酷になれるのかという。
設定とか関係なく観れるが故に人間が持つ普遍的な姿だという事を物語は語っています。
少年が関わる人々はもちろん全員が全員悪意を持っていた訳ではもちろんありません。純粋な善意や、許し、温かさを与えた人間もいるのです。
中には手のひら返す人もいますが。

作中の序盤で描かれますが原題の「ペインテッドバード」の話。
鳥飼いの男が翼を白く塗った小鳥を群れがいる空に放つ。
籠から自由になったように見えたが、同じ鳥の群れには別の生き物と認識され一斉攻撃を受け墜落死する。
生き物が群れで生きるには別種は排除するべきものであり、生き物として仕方のない行動ではあるのですが、それと同様の事を理性を持つ人間も平然と、時には嬉々として行う姿を描いていきます。

作中一言二言位しか台詞を言わない程無口な少年も旅をするにつれて成長していきます。最初は暴力や悪意に巻き込まれるだけだったのが、次第に生き延びる為に平然と暴力を使い、自らの復讐を行うようになっていきます。撮影に2年かけただけあって成長する姿の説得力が圧倒的です。

話ばかりに目が行きがちですが映像も素晴らしいです。
個人的に映画は不勉強なのでモノクロという映像は勝手にカラー以前の少し古い映像をイメージしてしまっていたのですが、現代のカメラで映し出された映像はモノクロでも素晴らしく美しいです。

少年があてどもなく歩く荒野や新緑の森、極寒の湖、戦場。
モノクロだからこそ見やすいゴアなシーンも確かにあるのですがそれを差し引いてもモノクロの映像の美しさが勝ります。
観ていると黒白でしかないはずなのに凄く鮮やかに色付いて見えてくるのが不思議でした。

少年の成長(方向性は別として)物語として観るか、普遍的な人間の寓話として観るか難しい所なんですが、どちらにしても中々に重たいテーマと話ですし、エンタメ感も少ないので中々お勧めしがたいですが興味のある方は是非どうぞ。

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