銀色のファクシミリ

花と雨の銀色のファクシミリのレビュー・感想・評価

花と雨(2019年製作の映画)
3.7
『#花と雨』(2020/日)
劇場にて。ヒップホップアーティストのSEEDAの自伝的映画ということで、起承転結とかの盛り上がりの構成ではないのですが、その鬱屈と足掻きの日々がよりリアルに伝わる良作でした。主人公吉田を演じる笠松将の、ひりつくような苛立ちが美しさすらある程にむき出しでした。

感想。幼少期を過ごしたロンドンでの、アジア人差別。そして帰国して通う高校での、帰国子女いじめ。周囲全てに嘲笑を向けてしまうような環境。同じ境遇にいるたった一人の仲間である姉だけに安らぎがあり、そしてヒップホップでの自己表現にのめり込んでいく。

彼の音楽は「アメリカかぶれ」「帰国子女ぶりやがって」と受けいれられず、周囲も「お前らしさ、オリジナルで勝負だ」とアドバイスするが、吉田は受け入れない。その理由は説明されないのですが、自分には「差別されたアイツラと同じ土俵で見返してやる」という反骨だったのじゃないかなと思えました。

思うように進まない音楽表現とは対照的に順調すぎる「仕事」。階段を螺旋のように駆け上がっていくシーンの先にある仕事場、仕事での転落を示唆する、今度は階段を螺旋のように降りていく様を上から見下ろすアングルで見せる映像表現が印象的。

音楽で彷徨い、仕事でも行き詰まり、「売るものなんかなにもない」と語った彼から最後に出てきたモノとは。鬱屈と反骨、焦燥と後悔。賞賛されるものではないけれど、生き様の奥底から生まれた彼だけの音楽(リアル)。ラストの「花と雨」が美しかったです。感想オシマイ。