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ラ・ジュテのsleepyのレビュー・感想・評価

ラ・ジュテ(1962年製作の映画)
4.8
永遠と一瞬 ****  

原題La Jetée(1962年)。時間とは何か。記憶とは、夢とは、郷愁とは。この映画は大上段にこれらを論じたり、突き詰めたりはしない。これらの本質を鷲掴みにするような映画でもある。そして、そっと脳内に手を入れられて遠い追憶を呼び戻されるような。

半ばを折り返してしばらくしたあたりで、あきらかに動画に一瞬変わるところがある。「覚醒」のシーンであることに重要性があるのだろう。その意味はともかく鳥肌が立つ一瞬。そして小鳥の囀り・・。私がまぶたを閉じた時間は「一瞬」だろうか、6時間だろうか。数十年であろうか。

テリー・ギリアムの「12モンキーズ」へインスパイアを与えた(というかギリアム流「ラ・ジュテ」かもだけども)という文脈を離れてもその映画としての表現にはすさまじいものがある。指摘されているようにヒッチコックの「めまい」とも繋がる。「彼」の選択はどこかやはりギリアムの「未来世紀ブラジル」をも強く思い出させる。時を越えた邂逅、確かな幸福、届かない永遠。

全カットが息を呑む美しさだが、とりわけ剥製だらけの博物館が圧倒的に素晴らしい。そして静かなナレーションの響き、荘厳だが小さく流れる音楽、わずかの効果音も。映像と音響のもつ力。本作ほど観客をどこかへ連れていく映画は数少ない。映画はここから50年、どれほど進化したのだろうか。2時間・何百億かけて何やってるんだろう。

名もなき「男」「女」を演じる2人が一言も言葉を発しない、動かないにもかかわらず、何という存在感だろう。「女」のエレーヌ・シャトランの母性。「男」のダヴォス・ハニッヒの儚さ。理屈は詳しい方々に任せて、「永遠」へ思いをはせつつ、この気の遠くなるほど美しい28分に何度も身をゆだねたい。しかし胸かきむしられるような悲しさと、そしてなぜか宇宙の果てを思う時の怖さにも襲われるが。

本作はこの時間、「フォトロマン」の手法、仏語の響きでなければこれほど観る者を打たないだろう。再度「12モンキーズ」と「めまい」を観たくなる。映画好きを自認する方は必見。一滴の劇薬のような「映画」。

★オリジナルデータ
La Jetée, 1962, 仏、ArgosFilms他制作、オリジナルアスペクト比(もちろん劇場公開時の比のこと)1.66:1、Spherical、28min、Camera(Arriflex Cameras Pentax 24 x 36)、B&W、Mono、ネガ、ポジフィルム35mm
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