新潟の映画野郎らりほう

約束のネバーランドの新潟の映画野郎らりほうのレビュー・感想・評価

約束のネバーランド(2020年製作の映画)
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【トリニクって何の肉】


2020最低級認定


事実を識る前と識った後、其々で映される子供達の食事シーン。
自分達が口にする肉も 同じ命である ― 常日頃 気にも止めぬ“命の等価性”を 改めて想起し苦悶するかと思いきや、何事も無く食べ続ける姿に愕然と為る。
少しは懊悩しろよと。仮にもフルスコア/300点の触込みだろうに。


“監視の目を盗み 企てる脱出計画”である筈だが、舞台劇調に大声で発し合う科白に依り 無きに等しき隠密性。当然、サスペンスなぞ醸成される筈も無い。
アイコンタクトで、所作/仕草で以て 情報を伝え合う気は毛頭無い様で、屋敷中に響く大声で 計画/心象/概況を発声し続ける。バカなのか。仮にもフルスコア/300点の学ならば もっと工夫して然るべきだが。


簡便に樹上に登り、労せず壁を登攀する ― そんなに御手軽に“真実の生”に辿り着くなよと。もっと歯を食い縛り もがき 這い蹲ったらどうなのだ。
宮崎駿「風の谷のナウシカ」で、少女が 脚を引き摺り 苦悶を浮かべ 尚 前に進むのは、“答えは簡単に手にする事は出来ない” ―その具現である。
右往左往し 試行錯誤し のたうち回る事を識らず、Wikipediaで簡便に辿り着く、そして其れを真実としてしまう。おめでとう、これがネット時代の真実だ?それでいいのか。


浜辺美波が脚に創傷を負う。
やっと“苦悶の身体性”が画面に表徴されるかと期待するも、単に痛がって終わる。おいおい。
そこで抗えよ。たとえ脚動かずとも その手を壁の外の 未だ見ぬ真実の世界へと 伸ばせよ、必死に。それが映画だろ。
そのままクライマックスのアクションになだれ込めばいくらでもテンションを上げられたものを、アクションを断絶し サスペンスを弛緩させる。
で、結局 脚の創傷は映画的に全く機能しない。訳が解らない。


是枝裕和「万引き家族」のレビューで、私は【パーティション】と評し、格差や差別 見ぬ振り識らぬ振りの“透明な壁”について言及した。直裁的な壁を用いずとも 世に蔓延る種々様々な壁の問題を浮かび上がらせていると。
対して本作。明け透けな壁が登場するばかりで、そこに即時的社会危機項目はどれだけ塗り込められていたのか。
城桧吏のキャスティングとは、つまり「万引き家族」との“響振”だ。そのキャスティング意図を汲まぬ/活かさぬ監督とは一体何なのか。


上映時間118分に於いて 心動かされたショットは、手にした焔が城桧吏の潤んだ瞳に映り込む唯ワンショットのみ。構図 / フォーカス / 配光で以て情感に迫る“映画的姿勢”の甚だしき欠落。


残照や 風にそよぐビニル片等で“語らずとも”心象を顕現してみせた『私を離さないで』なぞ何処にも見当たらないが。


寓話の壁を作り 寓話の侭で終わるな。その壁を壊し 如何に普遍とするか。
ママ(平川雄一郎)の教えを信じ 真実の生(良作)を目指した子供(役者)達が不憫極まりない。




《劇場観賞》