ひこくろ

はるヲうるひとのひこくろのレビュー・感想・評価

はるヲうるひと(2020年製作の映画)
4.7
生きることの哀しさ、苦しさ、滑稽さ、美しさなんかがまるごと強烈に響いてくる映画だった。

島の売春宿で働く女たちは、自分たちが陰の存在であることを十分に理解しつつも、たくましく図太く生きている。
得太もそうだ。彼は自分のことをどこかゴミのように感じている。それでも、妹と二人生きていくと心の底で覚悟を決めている。
だから、彼は兄から理不尽な折檻を受けても、アル中の妹がおかしくなる姿を目の当たりにしても、絶望しない。
声を押し殺して泣き叫びながらも、彼は「生きていく」ことを選び続ける。
まるで、そうしていくことこそが、生きていくことそのものであると訴えるかのように。

誰もが哀しみを背負っている。生きづらさを抱えて苦しんでいる。
それでも生きていくんだ、という強い意志が、得太だけでなくすべての人物から滲み出てくるのに震える。
また、それをあまりに自然に上手に見せてくる脚本が輪をかけて素晴らしい。
台詞はそれほど多いわけでもないし、基本は何気ない言葉が中心だ。
なのに、ちょっとした行動や、些細な仕草などから、それぞれの人物の思いや覚悟や強さや弱さがしっかりと伝わってくる。

観終わって、この映画は人間賛歌なんだなと強く思った。
すべての「生きる」人たちに贈る応援の映画だとも言えるかもしれない。
素晴らしいものを観た。本当にいい映画だった。
ひこくろ

ひこくろ