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スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホームのymdのレビュー・感想・評価

4.5
MCUとしてでなく、マーベル映画としての集大成的な壮大なファンムービー。

まだネタバレを避けなければならないタイミングなので内容について触れることはできないけれど、これまでスパイダーマンをはじめとしたマーベル映画諸作を鑑賞していればいるほど、数々の小ネタや背景にグッと来るものが多いはずである。

ただそれは裏を返せば、マーベル映画に多少なりとも触れておかなければならず、前提を理解しておく必要に迫られている、ということにも他ならない。

シリーズものなのである程度は仕方ないにせよ、あまりにも膨大な文脈からのサンプリングだらけなので、映画単体としてはハイコンテクスト過ぎると思わざるを得ない。

とはいえ、すべてのヒーロー映画ファンが観るべき映画であるという事実は揺るがない。

本来ジュブナイルムービーとしての側面が強いスパイダーマン諸作だけど、ジョン・ワッツによるMCU版はその路線をさらに大胆に推し進めており、過去2作でもピーター・パーカーが未熟な子どもから利他的な精神を宿す大人のヒーローになっていく過程を瑞々しく描いてきた。

この3作目でもその路線は踏襲しているのだけれど、スパイダーマンの骨子ともいえる「大いなる力には大いなる責任が伴う」ことを、これまでになくシビアに提示している。

そのテーマに最もシリアスかつ真摯に向き合っていたのはサム・ライミ版だったのだけど、本作はまた違った角度からそこに踏み込んでいると感じる。
リブート映画の面白さはこういうところにあると思う。

(話は逸れるがジョン・ワッツは子どもと”怖い大人”の対比を描くのが抜群に上手い。『コップ・カー』なんかが特に顕著で素晴らしい映画なのでぜひ)

『ホームカミング』『ファー・フロム・ホーム』はクリフハンガーで鑑賞者をやきもきさせたけど、本作はそうした伏線をしっかりと回収し、補完することに成功している。

扱うテーマが複雑すぎるので、腑に落ちない消化不良なポイントも多々あるのだけど、MCUらしい迫力のあるアクションシーンの連続でだんだん気にならなくなってくるし、最終的な着地の素晴らしさの前にはもはやどうでもよくなってしまった。

エンターテインメントとしての圧倒的な強度・リッチ過ぎる構成に脳天を撃ち抜かれてしまった一方で、ディズニー傘下のマーベルの有無を言わさぬ態度に対して嘆息が漏れてしまったのも事実。
これがスタンダードにはなってほしくない。

永遠に”特別な映画”であり続けてほしいと切に願う。
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