むさじー

罪と罰のむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

罪と罰(1983年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

<“道理”を殺したかった男の罪と罰>

フィンランド・ヘルシンキの食肉解体工場で働くラヒカイネンは、仕事帰りに実業家ホンカネンを射殺するが、ケータリング業者のエヴァに目撃され何故か彼女に逃げるよう促される。やがて捜査の手が伸びるものの証拠不十分。彼は拳銃をコインロッカーに隠し、その鍵を路上生活者に与えて彼を犯人に仕立て上げ、自分は国外逃亡を企てるが‥‥。
原作はドストエフスキーだが、似ても非なる全くの別物。ラヒカイネンは原作のラスコーリニコフのような殺人を正当化する理屈を持ち合わせず、罪の意識もないニヒリストで、エヴァは善人だが、娼婦ソーニャのように博愛とか自己犠牲の生き方をしている訳ではない。しかし、何が心を動かしたのかは判然としないが、彼も最後には自首する。
そして刑務所に面会に来たエヴァの「待っている」の言葉に「お前の人生を生きろ」と突き放し、「俺が殺したかったのは道理。人じゃない」と告げる。さて、彼が殺したかった“道理”とは何か。誤訳ではないかと思ったが、フィンランド語が分かる訳もなくて。
ラヒカイネンが射殺した実業家は3年前、酒酔いのひき逃げ事件で告発されたが証拠不十分で無罪になっていて、被害者は彼の恋人だった。実は私怨だけでなく「罪を犯しても裁かれない(世間の)道理」つまり世の不条理を糾弾したかったのではないか。
カウリスマキの長編デビュー作で当時26歳。後の作品と違ってユーモアやペーソスはないが、独特の寡黙で淡々とした作風は出来上がっていて、この世に生きる孤独と無常観がやるせなく漂っている。
むさじー

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