ベイビー

雨月物語のベイビーのレビュー・感想・評価

雨月物語(1953年製作の映画)
4.0
はじめての溝口健二監督作品。

黒澤明監督、小津安二郎監督と並ぶ日本映画界の三大巨匠のお一人だと言われたら、それはもう観ずにはいられません。

ああ、やはり画角が美しい。特に琵琶湖を舟で渡る場面は印象深く、霧の濃淡でモノクロームのグラデーションを作り出し、この後の展開を暗示するかのような怪しさが醸し出されています。

物語は戦国時代による混乱期が舞台。昨日まで農民だった者が、具足と槍さえ持参すれば誰でも戦に参加でき、そこで手柄を取れれば侍に引き揚げられ、ことと次第によれば一石一城の主にもなれる混沌とした時代です。

そんな時代で一攫千金を夢みる源十郎と藤兵衛。それに引き換え、源十郎の妻である宮木と藤兵衛の妻である阿浜は、夫の出世など全く望んでいないご様子。この物語は、成り上がりたい男たちと日常の平安を望む女たちとの心のギャップが見て取れます。

この作品が第二次大戦から8年後に公開されたことを考えれば、この戦後の混乱期も戦国時代のように混沌としていて、どさくさに紛れ裸一貫で成り上がろうとする男たちが大勢居たのかもしれませんね。

だとしたらこの作品は、弱者である女性の立場から、そんな機運に乗っかろうとする男たちに向けて、

「あんた、調子に乗って欲に溺れたらあかんよ!」

と、きつく諭されているようなお話に感じます。

この作品は時代劇にも関わらず、少しファンタジー要素も含まれているのですが、効果的なカメラワークと役者さんの演技力だけで、その現実と幻想の世界との境目を区別してしまうのですから見事なものです。

その幻想世界で一際光輝いていたのが京マチ子さんの演技。今作でも京マチ子さんの妖艶さはご健在でした。その少し"能"の面を思わせる美しいお顔立ちは、どことなくミステリアスな雰囲気が漂い、今回の役どころにもピッタリはまってました。

小津監督の「浮草」といい、黒澤監督の「羅生門」といい、今作の「雨月物語」といい、日本の三大巨匠の作品に出演されてるなんて、当時の京マチ子さんの人気ぶりが窺えます。やはり観ていても画面から漂う存在感が違います。

ハリウッドのスピルバーグ監督やスコセッシ監督が黒澤明監督から影響され、ジム・ジャームッシュ監督や台湾ニューシネマのエドワード・ヤン監督などが小津安二郎監督に影響されたように、ゴダール監督等、ヌーベルバーグの若手監督に影響を与えたと言われる溝口健二監督の演出。どんなものかとずっと前から観よう観ようと思っていたので、今回拝見できてとても良かったです。

しかし僕自身、溝口健二監督を語るには、まだまだ勉強が必要だと感じました。あと2〜3作は作品を追いかけて、溝口美学の真髄を学ぼうと思います。
ベイビー

ベイビー