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ようこそ映画音響の世界へのymdのレビュー・感想・評価

ようこそ映画音響の世界へ(2019年製作の映画)
4.2
『すばらしき映画音楽たち』とのセット鑑賞推奨の名ドキュメンタリー。

映画というアートフォーム・エンターテインメントの奥深さを堪能できる素晴らしい記録作品になっている。

同時に映画館でこれを観れなかったことを猛烈に後悔。これは取り扱う題材の性質上、映画館で観るべきタイプの映画である。

『すばらしき〜』よりもさらに、映画における音の持つ繊細な役割にフォーカスされており、過去の傑作映画を例に出しながら「音響」の重要性を深掘りしていく。

一般的に映画作品の評価は監督や演者たちに向けられることが多いけれど、映画というのは演出や演技だけではなく、映像・照明・音楽・音響・装飾・編集などの数えきれない分野のプロフェッショナルたちによって創造されるものである。

本作はその中でも特に陽の目を浴びることの少ない「音響」に携るエンジニアにフォーカスしており、彼らの普段知ることのできない仕事の一端を垣間見ることができる。

音響の世界は映像表現と同じくその時代のテクノロジーとの関係性が極めて緊密であり、音響エンジニアたちは最先端の技術を模索しながら一つ一つの音を構築していくわけである。
ただその創造表現の根本にはフィジカルな行為、つまるところ「考える過程」が存在するのだ。

それはクリエイターと呼ばれる職業全て通じる普遍的かつ最も神聖な行為であり、それをフラットにパッケージングしたこの映画の価値は高い。なにかを作る仕事に携る人のみならず、“働く全ての人”にとって必見の一本だ。

本作を観て改めて痛感したのは「素晴らしい監督は音響の持つ重要性を完璧に把握していること」であり、名作と呼ばれる映画の多くはどれもサウンドデザインについて非常に優れているということだった。

特に『スターウォーズ』や『地獄の黙示録』の壮絶なエピソードは、監督(ジョージ・ルーカスとフランシス・フォード・コッポラ)とエンジニアたちの信頼関係の上で成り立つストイックな対峙が繰り広げられていて驚嘆。
全映画ファンにとっては見逃せないエピソードだ。

これを観た後と前では映画に対する見方がガラッと変わるはず。

登場人物ひとりひとりの矜持を貫くコメントが胸を打つ。自分ももっと頑張ろう。
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