人生の大半を、刑務所で過ごした主人公、三上が出所し、シャバでの生活を始める。当然のことながら、「はみ出しもの」である三上に今の世の中は手厳しい。彼自身が抱える生育歴や、感情的な性格に苦労しながらも、彼を支えてくれる人々と共に、少しずつ前に進んでゆく。
すばらしき世界
西川監督の作品は、タイトルが難しい。単語の意味は簡単だが、最後にこのタイトルが現れたとき、少し混乱した。ここは素直に、人生のレールを踏み外した人間にとって、現代社会は生きづらく孤独で厳しいが、分け隔てなく暖かく関わってくれる人間がいて、そういう普遍的な優しさや温かみを大事にして、地道に生きていくことで、今まで見えなかった別の世界が拓けてくる…ということなのかなと、受け取っておきたい。
以前は怒りをコントロールできなかった三上が、介護施設でのスタッフの嫌な言動に目を瞑って懸命に耐えた。そのあと、彼が目にしたコスモスは、とても美しかった。この美しい花も、プレゼントしてもらった自転車で通るいつもの帰り道も、あなたが努力して手に入れたものであり、風景であり、日常なのだと。
重く、苦しい作品なのに、観終わった後はほんのり温かさが残るという不思議な作品。
俳優陣が皆、すばらしかった。役所広司さん、梶芽衣子さん、キムラ緑子さんは、言わずもがな。北村有起哉さんは、ヤクザと家族で2日前に「中村の兄貴」として観ていたので、ギャップに驚愕した。しかも立場まで真逆ときた。なのにどちらの役にも全く違和感なく溶け込んでいて、すごかった。仲野大賀さんは、他にもたくさんの映画に出演されているが、私にとっては本作が初めてまともに演技を観た作品。よかった。そして声がいい。好き。
長澤まさみさんは、出演場面こそ少ないが、強烈な存在感を放っていた。清純なお嬢様風白色統一コーデでの爆走、からの飛び出す辛辣な言葉…言われたら絶対トラウマになるわ。
