すいか

草の響きのすいかのレビュー・感想・評価

草の響き(2021年製作の映画)
3.9
5本目。

心を病んだ男とその妻が函館で営む生活を描いた作品。

ランニングを通して和雄はゆっくりと調子を取り戻しているように見えるが…ランニングへの執着、「お大事に」という言葉やなかなか減らない薬に対して呟く言葉、生まれてくる子ども服の洗濯物を目にした時の表情から、和雄がまだ回復しきれていない様子が伺える。和雄の妻・純子は、静かに彼に寄り添うが、自分の存在が夫を苦しめているのではないかと漠然とした不安を抱えている。
和雄がランニングで出会う高校生たちとのゆるやかな関わり、その高校生たちの物語も同時に進む。転校してきたばかりのスケボー少年と、不登校の少年、その幼馴染の少女。3人とも、将来に漠然とした不安を抱えながら過ごしていることが少ない会話の中から見てとれる。
いつか誰かの糸が切れるのではないかという緊張感が、多くを語らず静かな空気が流れる中で際立っている、そんな作品に感じた。

和雄の友人・研二の存在は、とても暖かく、この物語の太陽のような存在だった。彼がいるだけで、観ているこちらまで安心して、「研二くんがいれば大丈夫」と、そんな気持ちになった。純子への対応も、自然体で変に気を使わない。このちょうどいい距離感は、作ろうと思ってもなかなか作れないだろう。
もし大切な人が、友人が、どうしようもなくつらく苦しい状態になった時、研二みたいに寄り添えるようになりたい。

東出昌大、奈緒、大東俊介は、皆いい意味でオーラを消していて、とても自然な振る舞いがリアルでよかった。
ちょっと気になったのは、室井滋演じる精神科医が若干高圧的だったこと。ああいう感じの医者はちょっと苦手だ。
すいか

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