すいか

サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)のすいかのレビュー・感想・評価

4.5
10万分の1秒の音響映画祭にて。

1969年6月29日から同年8月24日までの日曜日の午後、ニューヨーク・マンハッタンのハーレムで開催された「ハーレム・カルチュアル・フェスティバル」。開催から50年の時を経て、初めて映像作品として編集されたのが本作である。当時の黒人を取り巻く差別や貧困、蔓延するドラッグ、アフリカ系アメリカ人公民権運動、ベトナム戦争といった大きなうねりの中で開催されたこのフェスの熱気を作品を通し感じた時、「あるいは、革命がテレビ放映されなかった時」という印象的な副題の意味を、少しだけ理解できた気がした。

期間中6日間行われたステージで、観客は延べ30万人。皆、ノリノリで、弾けるような笑顔で歓声をあげている。作品中には、リアルタイムでその場にいた観客も何人か登場するが、本当に楽しかったと当時を振り返る。嵐のように過ぎ去り、終わったあとは語られることもなかったため、「あれは夢だったんじゃないかと思っていた」と、50年前の映像を再び目にして涙を浮かべる人もいた。黒人だけでなく、プエルトリコなどからの移民も参加しており、つい先日観たインザハイツを思い出した。
アポロ11号が月面に降り立った歴史的な瞬間にこのフェスが開催されていたことに驚くとともに、当時のインタビューに答えたフェスの観客が、口を揃えて「そんなことにお金を使うなら私たちにそのお金を回してくれ」と言っていたのが印象的だ。黒人と白人で、月面着陸という「偉業」とされた出来事の捉え方が全く違っていたのだ。フィクションであるが、数年前公開された「ファーストマン」の中にも、同じような場面がほんの少し描かれていた。

「生まれ育ったその環境、歴史、思想すべてブチこんで表すことが出来ればいい」という、ある日本のロックバンドが歌う歌詞の1節が非常に心に残っている。個人的な感覚だが、まさにそういうステージだと感じた。全部を歌に込めて、表現するアーティスト達、特にニーナ・シモンのステージは圧巻。黒人で初めて大学に進学した女性が、寮で白人から嫌がらせを受けたとき、ニーナ・シモンを聴いてやり過ごしたというエピソードも印象的だった。

12本目
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