主人公・三上は不器用ながらも真面目で正義感に溢れる人物だ。しかし、一面怒りを抑え切れない凶暴性がある。己の正義感を暴力以外で表現出来ない事は三上の人生に影を落とす。そして行き着いた殺人。この作品は三上が出所後に社会に馴染む為に苦闘する姿を描いている。多くの人は自分には関係ないと思うかもしれない。しかし人間が社会的動物である限り居場所を見つける事は人生の重大なテーマだ。そういう意味で普遍的な物語になっている。更生しようとする三上に立ちはだかる社会の壁。ネグレクトされた子供時代を救えなかった事を含めて社会の冷たさに翻弄される。一方で人柄に惹かれて手助けする人々も現れてくる。特に三上を取材対象としてしか感じていなかった若手テレビマン・津乃田が徐々に心の距離を近づけていく様は観客の気持ちともリンクして感動的だ。物語の終盤、三上がトラブルを避ける為にいじめを見て見ぬふりをする場面がある。ストレスを感じて血圧が上がり苦しむ三上。見て見ぬふりをする事に慣れた私たちの欺瞞を突き刺す印象的なシーンだった。果たしてコスモスの香りに包まれて三上は広い空を感じられたのか。そう信じたい。傑作。
