Growltiger

すばらしき世界のGrowltigerのレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
4.3
「娑婆は我慢の連続ですよ。我慢のわりにたいして面白うもなか。やけど、空が広いち言いますよ」

13年間の刑期を終え出所した主人公の娑婆での再生と奮闘を描く。
実在の人物をモデルに書かれた小説『身分帳』の映画化作品。


予告の感じからもっとテレビ局の連中とのいざこざがあるのかと思ったが、そこがメインではなく主人公三上の生き方をまざまざと見せられた感じだった。
一度レールを外れた者の生き難さと厳しい現実が淡々と描かれていて、正直最初は結構辛い場面もある。
世の中って犯罪者に不寛容だよなーと、自分の不寛容さを棚に上げて悶々と鑑賞していたら長澤まさみ演じる吉澤の「レールの上を歩く私たちでさえ、幸せを感じていないから、(世間は)外れた人たちを許せない」という説明がストンと腑に落ちた。
(この映画は所々で胸に響く言葉が沢山出てくる)

普通に暮らしていたって世の中が素晴らしいなんて感じ難いのに、三上の人生を描いて「すばらしき世界」なんて、皮肉なタイトルだなと思っていたがラストまで見た時、なんとなくタイトルの意味を理解出来た気がした。

有名な言葉に「人は人に傷つき、人に癒される」というのがある。
映画では冷淡な役所の職員や、万引きを疑った店長の存在がそれかも知れない。
彼らの対応に傷つきイライラした場面もあるが、その後の関わりを見ていくと世の中捨てたもんじゃ無いんだよなと思わせてくれる場面があり温かかった。

刑務所に入る人間も実は我々とそう大きくは変わらないのかも知れない。
我々はみんな理性で抑えたり、時には見て見ぬ振りもして上手く立ち回り我慢しているだけで。

文頭に書いた台詞はキムラ緑子演じるヤクザの姐さんが主人公に言う台詞だけれど一番心に響いた。
広い空の下、良い事も悪い事もある。笑ってる人も、泣いてる人もいる。
生きているのは同じ世界だ。

映画館を出た後、思わず空を見上げてしまった。