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アンテベラムのkuuのレビュー・感想・評価

アンテベラム(2020年製作の映画)
3.8
『アンテベラム』
原題 Antebellum.
映倫区分 G.
製作年 2020年。上映時間 106分。
ジャネール・モネイが境遇の異なる2人の人物を1人で演じた異色スリラー。
ヴェロニカとエデンの2役をモネイが演じている。
製作に『ゲット・アウト』『アス』のプロデューサー、ショーン・マッキトリック。
人種差別、奴隷制度の恐怖と暴力、映画の後半には激しいバトルが繰り広げられ、新たな真実と反転が浮き彫りになり、興味深く描かれています。

人気作家でもあるヴェロニカは、博士号を持つ社会学者としての顔も持ち、やさしい夫と幼い娘と幸せな毎日を送っていた。
しかし、ある日、ニューオーリンズでの講演会を成功させ、友人たちとのディナーを楽しんだ直後、彼女の輝かしい日常は、矛盾をはらんだ悪夢の世界へと反転する。
一方、アメリカ南部の広大なプランテーションの綿花畑で過酷な重労働を強いられている女性エデンは、ある悲劇をきっかけに仲間とともに脱走計画を実行するが。。。

今作品は、南北戦争の再現の暗黒面について、つまり南北戦争前のアメリカで奴隷として酷使される黒人奴隷たちの人種差別の話をテーマにしたスリラー反戦映画でした。
また、タイトルの『アンテベラム』とは、アメリカ南北戦争直前の時代を意味する用語です。
一部の人々がその行為を行き過ぎたものにして、それを実現しようとすることについての映画です。
今作品の映画ポスターにある、
『アンテベラム』と原題"Antebellum."(”Ante-Bellum South”)の、カタカナの『テ』と、アルファベットの"E"は、何故反対方向に変えているのか。
また、ブラック女子、そして唇を塞いでいる赤い蝶、これは何を意味するのか。
蝶々からは血が流れてる。
何故流しているのでしょうか。
“If it chooses you nothing can save you.”
“それがあなたを選んだら、何もあなたを手に入れることは出来ない”
ちゅう台詞は、何を意味するのか。
それらの謎が、最後まで明らかにされていないとこが、今作品のミステリーなんかな。
映画の斬新なテーマとしても、個人的には興味を上手く引き出していますが、そこは意見は分かれるとこではないかな。
しかし、今作品を観ると、しばしば過る蝶々。
そして物語から連想すると“胡蝶の夢”ちゅう四字熟語が浮かぶ。
余談ながらこの“胡蝶の夢”てのは、
中国の戦国時代の宋の蒙生まれの思想家の荘子(荘周)による、現実と夢の区別がつかない状況であり、夢の中の自分が現実か現実の方が夢なのかといった寓話から来ています。
原文は漢文ですので書き下しすると、 

『昔者荘周夢に胡蝶と為る。栩々然として胡蝶なり。
自ら喩しみて志に適へるかな。
周たるを知らざるなり。 俄然として覚むれば、則ち蘧々然として周なり。
知らず、周の夢に胡蝶と為れるか、胡蝶の夢に周と為れるかを。
周と胡蝶とは、則ち必ず分有らん。此を之れ物化と謂う。』

その内容を端的に書くと、夢の中で胡蝶(蝶のこと)として、ひらひらと飛んでいた所目が覚めたが、果たして自分は蝶になった夢を見ていたのか、それとも今の自分は蝶が見ている夢なのか、と、将に今作品を物語っています。
夢と現実(胡蝶と荘子)の区別が絶対的ではないとされると共に、とらわれのない無為自然の境地が暗示されています。

余談が過ぎましたが、今作品は、アメリカの大部分が、南北戦争や南部連合以前の時代、つまり前世をいまだに祝っているというでもある。
『ゲット・アウト』を思い出させる。
今作品の見始めた時、レイアウトはいまいちやったのですが、最後には嵌まってました。
その理由は、伏線がたくさんあることで、いくつか伏線を挙げると、第一に、綿花を収穫した奴隷たちの前で綿花を燃やす場面で、なぜ綿花を燃やすのか(最後にはその疑問が解ける)。
また、ベロニカの家にある非常に大きな絵、赤い長着を着た馬の横にいる堂々とした女性。
映画の後半では、別の女性、おそらくそれほど堂々としていない、赤い長着を着て馬に乗る女性を見る。
そして、ヨガ、等々。
今作品は繊細な美しさに気づくことができます。
次のひねりや筋書きが気になり、夢中にさせてくれました。
また、今作品の最後の30分間は眩しいものでした。
とは云え、最初の1時間15分が、ラストの満足のいくクレッシェンドへの有徳な土台を築いたことは評価しなければならないかな。
推進派の善玉と悪玉がはっきりしているのがよかったし、悪は過去に生きようとし、進歩の担い手(善)を抹殺しようと躍起になってる。
ある時、連合国旗に覆われた敵対する偽者が、彼が深遠だと思うことを予言するんだけど、それに対して主人公のヴェロニカが、映画のこの時点では明らかに憤慨していることを示すかのように、ハレーションに似た感じだけど、これは、善と悪、あるいは善と悪の間に存在する不条理な隔たりをつまらなくしていることを浮き彫りにしてる。
また、映画撮影は巧みでした。
スコアも同様に巧みで、今作品の微妙な恐怖を誘発する構成要素となってたし、今作品には本質的に恐ろしい部分がありますが、ジャンルとしてはホラーと呼ばず、敢えてダークミステリースリラーと呼びたいかな。
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