にくそん

星の子のにくそんのレビュー・感想・評価

星の子(2020年製作の映画)
3.8
途中、ちひろの親戚の七回忌法要のシーンがあって、みんなして黒い服を着て神妙な顔をしてお経を聞いているのを見ると、なんでこれはよくてあれ(ちひろの両親が信仰する新興宗教)はダメなんだっけって、ふと分からなくなる。信じるとバカにされたり敬遠されたりするようなものを信じてしまう気持ちって、信じざるをえない気持ちってせつない。

ちひろの親友・なべちゃんと、なべちゃんを大好きな新村くんが素敵だった。他人の価値観を尊重する、親と子をいっしょくたにしない、そういう当たり前のようで難しいことを何食わぬ顔でやってのけてる中学生かっこいい。

それにしても芦田愛菜プロの表現力よ。天才子役の名をほしいままにした幼少期と同様、今も同年代トップの実力派女優をやってる。この人はこのまま各世代で優勝し続けるのかな。すごいな。それでも劇中、泣き方が子どもみたいで、きゅんとした。「ちーちゃんが悪いんじゃないのに!」とガラにもなく憤りをおぼえてしまった。泣き方だけは「Mother」のときとあまり変わってないのかも(と思わせるために、意識してやってることだという可能性もあるけど)。

岡田将生さん演じる南先生も感じの悪さ抜群で見ごたえがあった。よくよく考えたら、先生の苛立ちも分からなくはない。授業をしているのに顔ばっかり見られて似顔絵を描き続けられるの、そりゃ辛いだろう。あんな怒り方(あれは叱ってない、怒ってる、しかも八つ当たり成分がほとんど)はないけど。

大森監督は多作の印象。撮った数が多いのって武器だな。培われる経験、人脈。黒木華や高良健吾をこんな贅沢に使える監督はなかなかいないのでは。そして、実にいい使いどころだった。大谷麻衣さんの保健の先生も最高。

小さなトンネルの向こうに海が見えるあの景色は小田原じゃないだろうか。友達が小田原に住んでいたことがあって、日帰りで遊びに行ったときに見た記憶がある。あのへんは地面が低くて、海抜どれぐらいとあちこちに看板が出ていた。懐かしい。

ラストは原作が勝ってる。実際に映像化されたのより、想像する星空のほうが澄みわたって奥行きがあるから、こればっかりはしょうがない。
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