かつきよ

ジョゼと虎と魚たちのかつきよのレビュー・感想・評価

ジョゼと虎と魚たち(2020年製作の映画)
3.0
よく出来たアニメ映画だった!

海外に魚を見にいくことが夢の、爽やかダイビング大学生の恒夫君と、自分のことをジョゼと呼ぶ車椅子の関西少女(と思いきやわりと大人の女性だった)のキラキラボーイミーツガール。
ジョゼは宇宙人とか人魚とか、なんかファンタジーな秘密があるのかと思ったけど、全然もっと現実的な話でした。
前半から中盤にかけて、うわ、つまらん……なんだこのキラキラしたボーイミーツガールは……と思ってたら、途中「なんでこんな酷い仕打ちを……鬱映画?」と思うような展開に胸がざわつき……最後は………………。
感動する人がいる一方で、自分はこれっぽっちも感動できなかったです。
見る人見る人評価が高くて、悪く言ってる人全然見ないので……。もし自分と同じように首を傾げた人がいたら教えてください



原作は短編小説で、なんと30ページほどの物語らしく、原作よりもそれを膨らませて描いた実写映画が有名らしい。
妻夫木聡さん主演の実写映画の評価が高く、アニメ映画化に関してあれを越えられないと賛否両論だったらしいです。原作も実写版も見てないので比較はできないのですが、ネタバレを読む限りでは原作や実写の方が作品のバランスはよさそう。後を引く生々しい感じとか、やるせない感じとか、苦虫を噛むような後味があった方が、作品のテーマや取り扱っている内容にマッチすると個人的には思ったから。アニメ版は良い意味でも悪い意味でも、(辛いシーンもあるけどそれより)爽やかでポジティブな印象が強くて、個人的に逆にモヤモヤさせられました。



どうやら、実写を映画化したわけではなくて、実写とは完全に別作品として短編小説を元にまた膨らませて作られたのがアニメ作品である今作のようです。
実写版は濡れ場が多いとかいうけど、今作は全然キラキラ系の健全極まりない内容なので、雰囲気も結構違った感じだと思います。内容も結構違うしオチも変わるらしいので、気になる人はぜひ。

とりあえずアニメ版だけ見た感想は、すごく、制作に力が入ってるのを感じたということ。
作画も雰囲気もいいし、元気が出る感じのいい話。世間での評判がいいのはとても納得できる
けど、正直つまんない。
刺さらない
何故こんなに刺さらないんだ
クオリティはべらぼうに高いのに。久々に外れ映画見たな……

と思ってしまった不思議な映画です

こんなに評価されててクオリティの高い映画なのに、どこが刺さらなかったのか、自分なりに考えてみたいと思います。

※以下ネタバレ感想有















ーーーーーーーーーーーネタバレ有り










○ストーリー①序盤

面白い面白くないを判断できないくらい自分に向いてない。そもそも恋愛映画ってそんなに好きじゃないから敷居が高かったのか
でも、恋愛的な少女漫画も読むことあるし、恋愛映画だって刺さることはある
今回の作品は、なんかもう出会いから全く惹かれなかった。

二人の出会いにも、関係性の構築にも、わくわくもどきどきもしない
住み込みでわがまま聞く仕事?するようになる展開もあんまりしっくりこない
うら若き美人な孫を、どこの馬ともしれない男に相手させるおばあちゃんいる?初手優しかったからって、そこまで頼む?

心開かないところから徐々に……っていうのはありがちだし嫌いではないけど、ジョゼの態度は普通に見ていて心地よくないし、必然性も必要性もない敵意に見ていて辟易とするだけでした。
結局仲良くなって、お互いに認め合って惹かれあっていく感じだけど、それにも同じく必然性が感じられなくて
恋愛ってそんなもんなのかもしれないけど、もっとお互いがお互いに惹かれる強い理由が欲しかったなぁと思ったり。恋愛に行くか行かないかの強い絆が構築される、ってくるいならわかるんだけど……。簡単に言えば二人の恋愛感情の描き方が臭かった。
ジョゼは閉ざされた世界で、切り離された孤独の中で、恒夫しか男を知らないわけだから、依存するのも、それを恋愛だと思うのもわかる。でも、まるでそれを純愛のように描いていて、子供っぽい嫉妬とか、執着にしか見えない生々しい関係性や感情に対して踏み込んだ描写や、否定、それでも惹かれていく過程が描かれていないのでとても残念だし、薄っぺらく感じてしまった。
それは恒夫の方もそうで、夢があって努力家でイケメンでどこへでもいける好青年が、閉ざされた世界のあんなにわがままで不条理でガキっぽい女の子に執着する理由は何?彼女の孤独に触れた同情が最初は大きかったはずだけど、それが強い恋愛に変わる過程がやはり見えてこなかった。彼女の部屋を見たから?それでは弱い気がする。個人的な感想だけど。

ただ若い男女が出会って、なんかそこそこ交流していくうちにだんだん惹かれあっていくって、そういったキラキラしたボーイミーツガールに面白さを感じない人は、少なくとも前半から中盤にかけては地獄だと思う。個人的には何も面白くなかったし、先の展開も気にならなかった

あとは、半身不随で車椅子というヒロインの設定が全然生かされていないような気がして
一応だからこその出会いとか、ドラマとかはそこそこあるけど、身体的にディスアドバンテージを抱えている人を主人公として描くのに、軽すぎやしないかなぁとか
この辺りは後半で回収は一応されるけど、それでも、やっぱり生々しさみたいなのは感じなくて、正直何を見せられてるのかよくわからなかった

○キャラクタ

主人公の恒夫とヒロインのジョゼ、どちらも全然好きになれなかったっていうのが、つまらないと感じた要因として一番大きい気がする。恋愛ものとか、人間ドラマ系は結局、ストーリーがどうの以前に登場人物に好感が持てるかどうかって部分が核だと思う。

とにかく、恒夫は、普通。キャラクタデザインは量産型イケメンって感じで、悪くはないけど、別に好きではない。性格とか動きとかは主人公然としているけど、没個性的で、引っ掛かりがなく、特別な魅力は感じない。顔が好き、声が好き、など、一部分でも刺さればアリだとは思うけど、個人的には全部の要素が刺さらなくて、鑑賞後まだ間もないのに、彼の顔も声も思い出せなくなってきてる。キャラクタとしてたっているのは多分ジョゼの方。

ただ、かくいうジョゼの方は、出会いからずっとひねくれている感じがいただけない。所謂ツンデレ属性とかならまだしも、ジョゼの場合とにかくガキっぽくて無駄に歪んでいる感じが見ていて心地よくない。
それで本当に子供ならまだよかったけど、年齢設定はまさかの24歳。社会に出ていてもおかしくない、いい大人の年齢でこの性格は、個人的には非常に好感度が低い。
キャラクターデザインも、完全に好みの問題ではあるけど全然魅力的に思えず、ジョゼの事を全く好きになれなかったのが、結局この映画を好きになれなかった一番の理由だと思う。

○アニメーション

ボンズさんの作画は圧倒的。画力だけでわかる名作の貫禄。最初から最後まで、動きもあり、迫力もあり、優美さもあるハイクオリティなアニメは、それだけで見る価値があった。
けれども、逆に言うと見て良かったと思えたのはそこくらい。
めちゃくちゃダメ押しなのですが、ボンズ制作のアニメといえば、ソウルイーター、血界戦線、モブサイコなど、激しさやアクションや、やりすぎなくらいの勢いを感じる作品で育ってきたので、PAとか京アニっぽい雰囲気に、個人的には若干のずれを感じました。

○歌

主題歌は明らかにミスマッチだろと思う。
Eveさんの歌声が聞こえてきてびっくり!
いい歌だと思うけど、Eveさんのイメージって、呪術の主題歌とかアウトサイダーとか、そういうイカしてて疾走感あるような歌だし、合ってるのもそう言う曲だと思う。
ローテンポだったり、しっとりした曲がダメなわけじゃないけど、こういうEveさんもいいな、と思わせるほどの実力がある映画ではなかったと個人的には思っていて、ただミスマッチな感じだけが目立っていたように思います。

○ストーリー②恒夫の事故

びっくり
事故のシーンから雰囲気一転
爽やかボーイミーツガールのメロドラマから、突然の鬱アニメ
いままで、この物語って車椅子設定なくても成り立つよなって思っていたけど、ここに来てその設定なしじゃ成り立たないストーリーに……。
ジョゼと同じ状況になって、主人公はジョゼの事を責められないし、今までジョゼのことをちゃんと理解できていなかったことがわかるし、気持ちも弱って、虚無状態
ジョゼもジョゼで罪悪感で虚無状態
二人の気持ちを想像しただけでも特大鬱で、二人ともいつ自殺しても驚かんぞ!という状態に

このまま後半までキラキラ青春ものを想像していた身からしたら一泡吹かされたけど、正直この展開も……好きとは言えないし、見ていて辛くなるだけ。最後の最後で感動するための布石とか、盛り上げのための谷だとも言えるかもしれないけど……

○ストーリー③紙芝居のオチ

肝心のオチが個人的に一番違和感。
ジョゼが頑張って作った紙芝居。全否定はしたくはないけど、正直、こんなもので元気が出たり頑張ろうって思えたりするものなのか?と疑問符ばかりが頭に浮かんでしまった。
ジョゼの真心や愛やメッセージはとても尊いもので、それを無駄と切り捨てたくはないけれど
ただ、絵本の内容を単純に解釈すれば、

自分は貴方によって元気付けられました。そんな貴方も絶望の淵に突き落とされたけど、そんなものじゃ負けない貴方は、希望を捨てずに努力して前に突き進みました!めでたしめでたし

ってことですよね。
勝手に美化して神格化して強さを押し付けるなと個人的には思ってしまうんですよ……。なんというか。
それは貴方の解釈で貴方の希望ですよねって。頑張る事を強要されたり、過剰に期待されてる感じでそれはそれで心地よくないしむしろむかついちゃうんじゃないかなって。
人の苦しみって比較して良いものじゃないと思うんですよ。その人の感じた絶望が絶対的で、誰に比べてましだとか、そういうのって嫌じゃないですか?それと同じで、無責任に貴方は乗り越えられるとか言うのも、もちろん元気が出る時もあるけど、内容によっては失礼だと思うんですよ。今回の紙芝居がまさしく私にとってのそれで、こんなパフォーマンスされてがんばらないなんて言えないし、なんか脅迫されてるみたいな気分になってしまって。

私ひねくれてるんでしょうか。
結局恒夫くんはこれに励まされて、なんとか怪我とか色々なものも克服して、最後二人は結ばれてハッピーエンド。それもそれでどうなのとか思ったり。
衝撃の展開とか、惹きつけるような流れとか起承転結の盛り上がりはそこそこにあったけど、感動ポルノじゃんって、正直思っちゃいました。

私、ひねくれてるんでしょうか……。

【参考】

https://www.club-typhoon.com/archives/2020/12/23/josse-tiger-anime.html

実写映画、原作にも触れていて、わりと満遍なく解説や感想を入れてくれていたので、おすすめ
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