ひろぽん

プロミシング・ヤング・ウーマンのひろぽんのレビュー・感想・評価

4.1
カフェで働く元医大生の女性・キャシーは、夜になるとバーで酔いつぶれたふりをして、男性客の自宅にわざと連れ込まれ、体を触ってきた相手に制裁を加えることを日課としていた。そんなある日、親友を死に追いやった男が近々結婚すると聞いた彼女は、かつての関係者らに復讐を企む。さらに衝撃の事実を知った彼女は思いがけない行動に出る。前途有望だったキャシーの鮮やかな復讐物語。


性被害によって自殺に追い込まれた親友ニーナのためにキャシーが命懸けで復讐していくお話。

前半は謎の行動を続けるイカれた女かと思いきや、ライアンとの出会いで復讐を忘れて幸せになるのかと思わせといて、後半に不穏な空気が漂い本格的に始まる復讐、という二転も三転も場面転換する構成が面白い。

冒頭のクラブで酔ったフリをするキャシーの姿はまるで十字架に磔にされたキリストのように見えたり、自宅のベッドルームのフレームが天使の羽のように映し出されたり、友人と食事するラウンジの照明が天使の輪に見えたりと、その他にもキャシーが天使のように見える場面が多々あって細部までこだわりが凄い。

復讐も実際に危害を加えた主犯の加害者・アルだけでなく、医学部の同級生だった女性・マディソンや大学の学部長のウォーカー、事件の主犯を弁護したグリーン弁護士という、見て見ぬふりをしてきた人たちまでも対象にした復讐劇にハッとさせられた。

また、ニーナの詳細、復讐、家族との関係性、暴力やレイプ被害の描写をあえて映し出さず、単なる復讐劇としてのカタルシスに終わらない表現がとても上手。

唯一描かれていなかった暴力シーンがラストに描かれるところが衝撃的だった。男性の前では力で抵抗できない1人の女性として描かれている。

キャシーの復讐劇のラストとなる5人目は、アルに対してであり、ニーナを救うことができなかったキャシー自身に対するものとも捉えることもできる。死から救うことができなかった自分自身への罰だと。

用意周到に準備された復讐計画から分かるキャシーのクレバーな人間性。最後まで芯が通っていてブレずに一貫していたし、サイコでも狂ってる訳でもなかった。最後の最後まで抜け目がなく、直接手を下さなくても相手をいたぶる術を知っている賢い人間だと思う。

男性が女性を搾取する、前途有望な女性たちが苦しむ社会を見事に描いている。

加害者側の「あの頃はガキだった」「酔っていた」の言い分と相対するかのように、「子どもと大人の身体は違うの?」とキャシーの両親の質問にライアンが「変わらない」と答えているシーンは最高に皮肉がきいてると思った。

レイプというテーマを扱った重い作品なのに、鮮やかな色合いの映像や絶妙な音楽がポップな雰囲気を作り出しており、とても観やすかった。特にBritney Spearsの『Toxic』のRemix曲を使う場面が最高に良かった。

もしかしたら自分も無意識な傍観者として、どこかで加担してしまっているのではないだろうかと感じる。

予想もしない方向へ向かっていく大どんでん返しな展開は面白い。メッセージ性の深い作品。巧みな脚本にまんまと騙された。
ひろぽん

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