銀色のファクシミリ

小説の神様 君としか描けない物語の銀色のファクシミリのレビュー・感想・評価

3.2
『#小説の神様 #君としか描けない物語』(2020/日)
劇場にて。原作未読。閉塞の中でもがく若き小説家の成長譚。実写化にあたって映像演出と音楽で、内面的な思索の物語にダイナミズムをもたせたのは大正解。ただ主人公の焦燥と失意をもっと深く描いたほうが良かったんじゃないかな。

あらすじ。かつて中学生で小説家デビューした千谷一也(佐藤大樹)だったが、高校生の現在では様々な理由で筆が止まってしまった。見かねた編集者から、別の小説家との共作を提案される。その相手は最近転校してきた小余綾詩凪(橋本環奈)、その正体は人気高校生小説家・不動詩凪だった。

感想。千谷が文章、詩凪がプロットを担当して共作を進めていく物語と、それに触発されて千谷が自身の創作への意欲を取り戻していく物語が交錯して描かれる。また「不動詩凪はなぜ単独で発表しないのか?」という千谷の抱く疑問が謎として物語を牽引する。

登場人物の為人と舞台になる文芸部が紹介され、物語が展開する第一章~第三章、そしてなにより第四章の大きな転回が出色の出来。才無き者の悲しみと、千谷と詩凪それぞれが不可避の大きな壁が描かれる。ただ原作自体に由来する部分だろうけど、第4章の転回の美しさを受ける最終章があっさり気味。

千谷の焦燥と苦悩を深く掘れれば、逆にクライマックスの山も高くなると思えました。しかし序盤の映像演出や、千谷と詩凪が共作以外の話をする時は樹木や柱、カーテンが分割して「違いとそれぞれの苦悩」を表現したり、久保茂昭監督の新ジャンルへの挑戦作として良かったと思います。感想オシマイ。