カツマ

パーム・スプリングスのカツマのレビュー・感想・評価

パーム・スプリングス(2020年製作の映画)
4.4
大切な人に会いたくなった。永遠のような今日で、運命のように出会えた奇跡。どんなに日々が虚しくても、楽しむ以外の選択肢が無いとしても、今その時、大好きな人の顔が見たい、そばにいてほしい。それはどこにでもあるラブストーリー。時空を越えて紡がれる、常夏の春のような二人だけの朝。

テレビドラマ『ロッジ49』の脚本で知られるアンディ・シアラが長年温めてきた脚本を、Hulu製作で長編映画化。監督を務めたのはドキュメンタリーや短編作品で経験を積んできた新鋭マックス・バーバコウで、これが長編映画初監督となる。主演の二人にはコメディ畑のイメージの強いアンディ・サムバーグ、主にテレビドラマでの活躍が多いクリスティン・ミリオティ、というキャラクター設定にどストライクな配役をキャスティング。同じ一日をループし続ける二人に未来はあるのか?あまりにもぶっ飛んでるけれど、実は普遍的なロマンティックコメディでもあったのでした。

〜あらすじ〜

2019年11月9日、ナイルズはベッドの上で目覚めた。そこは結婚式が行われる予定のカリフォルニア州パームスプリングスの、とあるホテルの一室。ナイルズは朝から恋人のミスティとの情事に励むも、絶頂に達することなく、どうにも不完全燃焼な朝が始まった。
ミスティは新婦の姉妹で、その日は大忙し。対するナイルズはプールの上でプカプカと浮かび、バカンスを楽しんだ。
夜になると披露宴がスタート。ミスティは自身のスピーチを挟んで、長女のサラへと唐突にバトンを渡そうとする。だが、当のサラはお酒が入っていてスピーチなどできる状態ではない。そんなタイミングで割り込んできたのがナイルズである。彼は見事すぎるスピーチを披露してその場を収め、期せずしてサラを救うことになった。
夜はふけ、世はダンスに興じる時間帯。一人、酒に浸るサラはマイルズに声をかけられるも、一度は彼を退ける。しかし、二人はミスティの浮気現場を目撃したり、岩場で語り合う内、ロマンティックな雰囲気に。そこに現れたのが兵士の格好をした謎の男。ナイルズはその兵士に矢を放たれ洞窟の中へと逃げ込んでいく。サラは『来るな!』というナイルズの静止も聞かず、洞窟の中へと入っていくと・・。

〜見どころと感想〜

この映画はタイムループ映画の秀作『ハッピー・デス・デイ』に世界観が似ていて、何度も何度も同じ一日をループする物語である。主人公は基本的に楽天的なパリピ気質で、そのせいか序盤は全く悲壮感のないのんびりとしたチルアウトが画面上を侵食する。しかし、一日を繰り返すうちに明かされていく秘密。それらが山積することで見えてくるのは、シンプル過ぎた愛の形。チャラそうで軽そうな前半は、本質を隠すオブラートでしかなく、実は驚くほどにピュアな後半が待ち受けている。

主演には『俺たちポップスター』や『ブリズグビー・ベア』に出演しているアンディ・サムバーグ。コメディ俳優のイメージの強い役者だが、これからは今作こそが彼の代表作と呼ばれることになりそうだ。共演には大きな瞳と、良い塩梅のやさぐれ感が同居した、クリスティン・ミリオティ。この二人のキャスティングがあまりにも絶妙で、他のキャストはちょっと考えられないくらいにハマっている。名優J・K・シモンズがキープレイヤー的な役で出演しており、彼の演じる役柄がそのまま主人公たちとの精神的な対比となっていた。

永遠のような今日を無為に過ごすうち、見えてくる本当の想いとは果たして何か。あり得ない設定も数あれど、それを力技で突破してしまえるエネルギーが本作にはある。何が起きてるか分かっている今日よりも、何が待っているか分からない明日を選ぼう。それはちょっと怖くて、夢の終わりのように思えるけれど、そこには今日よりも素晴らしい一日が、待っているのかもしれない。

〜あとがき〜

昨年のサンダンス映画祭で話題を呼んだ注目作品を劇場鑑賞、期待を裏切らない面白さで堪能することができました。タイムループものは色々ありますが、時空の先で主人公が成長していく、という王道の展開は貫きつつ、コメディタッチな楽天さでスピーディーに駆け抜けてくれます。

もし、今日が永遠に続くとしたら、どんな選択肢を選ぶだろう?それらのバリエーションは今作のキャラクターが体現してくれていますので、ぜひ目撃してみてほしいと思います。もしかして、他にもタイムループしてる人がいる、、?なんて想像するのも楽しい作品でした(笑)
カツマ

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