きよぼん

アカーサ、僕たちの家のきよぼんのレビュー・感想・評価

アカーサ、僕たちの家(2019年製作の映画)
3.8
湖のほとりに住む大家族エナケ一家。都市と距離を置き、自然の中で暮らす彼らだったが、行政の介入によって都市への移住を強制される。

みんな虚構の中に生きてるのかも?

それは後で述べるとして、まず正直に感想書くなら、やっぱり一家の親父さん問題ありすぎる。「文明社会が嫌になった」って言うのはいいけれど、子どもに同じ生活を強制するのはいただけない。福祉課のアドバイスも完全無視。しまいには「生かすも殺すも俺の子どもだ!」とシュートな発言をするという、なかなかの問題ある人物にみえた。子どもに社会性やら常識を身につけさせるのは親の責任。というか、優しさだよなあ。親に人生を左右されてしまう子ども。本作のテーマとは違うのだろうけど、今現在の日本に照らすと「毒親」「親ガチャ」なんていう言葉が、他の国の現実ながら頭をよぎる。

都会に移住させられた一家は生活になじめない。禁止されてる場所で釣りをして警察を呼ばれたり、モノを破壊したりとトラブル続き。子どもの中には「元いた場所に帰りたい」と泣く子もいる。胸が締め付けられる。あの子には「今はしんどいけれど、慣れるときっと楽しい生活が待ってるんだ」と言ってあげたくなる。

そこでハタと気がつく。「親父は子どもに選択肢をあたえるべき」「子どもは自由であるべき」。それが幸せなんだ、と言いたくなるのは、自分が今の社会や常識を信じているからだろう。そして父親は「そんなもん虚構だ。オレには自分が信じてることがあるんだ」と反論したいのだろう。

そこに再反論するだけの力は自分にはない。なにが幸せであるか、というのは、突き詰めれば虚構の物語にすぎない。助けてくれるはずの国という「物語」だって戦争や災害になればわからない。自分は社会や常識という幸せの虚構の物語を信じているだけかもしれない。

虚構とはいえ、何かを信じなければ動けない。だけど違うことを信じてる人に接するときは真摯であらなければいけないということも感じた。家族を受け入れる行政側の職員の方の対応は問題ないようにみえたけど、やっぱり人間が考え方を変えることを迫られるっていうのは、一種の「暴力」にみえて気持ちいいものじゃなかった。相手の信じてる物語に手を突っ込むときは、それが虚構だと思っても尊重しすぎるということはないのだろう。

人権、常識、幸せという、本で読むとややこしいテーマを、本作をみることでわかりやすく感じられる映画だと思う。ちょっと監督が意図したテーマとずれてるかもだけど。良作。
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