エミさん

83歳のやさしいスパイのエミさんのレビュー・感想・評価

83歳のやさしいスパイ(2020年製作の映画)
3.1
TIFF2020にて鑑賞。
チリ制作。これはドキュメンタリーなのかな??
なんとなくモキュメンタリーっぽくもあったけど、ちゃんとホームの許可を得て、3ヶ月に渡って撮影したそうです。

探偵事務所で高齢者の求人広告を出し、採用されたセルビオという紳士なおじいちゃんが、依頼者に代わって、サンフランシスコにある老人ホームに潜入し、そのホームの様子や依頼者の母の様子を調査するという内容なのだが、最初は何ともヤラセっぽい胡散臭いやり取りがあったりして、失笑しながら観ているうちに、ホームの様子や人間関係が面白くて、段々と引き込まれてしまいました。

ホームは清潔で明るく、たくさんの季節の花が咲いている。
沢山の高齢者が住んでいるし、従業員だってあちこちで働いていて、決して怠惰ではなく、むしろ優しかったり懸命だったりするのに、入居者は孤独感や帰宅欲求を感じていたりする。

何不自由のない環境であろうとも、自分の意思で選んだものでないものは違うのである。選択肢のない勝手に与えられた暴力なのである。
昔は長生きって夢や憧れみたいなものだったけど、いざ長寿社会が現実になると、弊害ばかりが目立つようになってきている気もしてしまうが、ともあれ、社会や家族を支えてくれていた、人生の先輩たちへの労いは必要だと思った。

以前、傾聴ボランティアをしたことがあるのですが、初めて会ったというのに、誰もが、生き生きと色んなことを聴かせてくれて、「必ずまた来てね」と手を振ってくれていたことを思い出しました。
人間誰しも年齢に関係なく自己肯定欲求があるよなぁと思いました。

昔、誰かに言われたのですが、
『人生の目的は、いかに多くの暇つぶしを見つけるかということ』
暇つぶしというと聞こえは悪いけど、歳を取るほどそうなってくるのかもなぁと、薄々思ってしまったりして…。
この作品は米国が舞台だけど、日本でも変わらない光景です。
自分も将来、こうなるのか…?と、想像したら、哀しくなってしまいました。
親族だったらなおのこと、でも他人でも構わない。挨拶だけでもいいです。
この作品のメッセージの様に近くの他人をちょっとだけ気にかけて欲しいです。