かつきよ

ナイトメア・アリーのかつきよのレビュー・感想・評価

ナイトメア・アリー(2021年製作の映画)
3.8
ギレルモデルトロ監督の最新作。
原作のある小説の映画化らしく、ストーリーラインからはデルトロらしさのようなものはそこまで強く感じられない一方で、映像からはデルトロ監督のやりたい放題のセンスをばちばちに感じました。

●雑感

ストーリーとしては、主人公の破滅譚。
前半部分では成功譚とも取れる活躍が展開する。ただ、主人公は常に視聴者誰もが「その道は間違ってる」と思う道を突き進んでいく。
主人公の現実や世界がどんどんと崩壊し、泥臭い悪夢のような絶望へと落ちていく様をじっとりと見せられる。
後味は砂を食べているようにじゃりじゃりとしていて、もやもやするような終わりを迎えるが、狙って作られたもやもやであって、映画に対して不満があったり、不明点があるモヤモヤではない。
計算された苦味、計算された後味の悪さ、計算された心地悪さ。

映画としての完成度は素人が見てもすぐにわかるくらいに高いと思います。
最初と最後がつながっている構成がカチッとはまっていて、美しさすら感じる。終始主人公の破滅を予感させるような演出が続き、最後にはそれが綺麗に組み立てられていく感覚は、まるで闇のパズルを完成させるような……重苦しく、窒息しそうな一方で、かちりとはまる美しさと快感も感じられて、不思議な気分になりました。

●現実なのに御伽噺のよう

デルトロ監督作品にしては、原作もあるためにファンタジーもモンスターもいない現実的な映画。
そのはずなのに、物語全体からはやはり浮世離れした闇の寓話の様。
家や過去を焼き捨て、あてどなくバスに乗り込んだスタンが夜のサーカスへと辿り着く描写が好き。寝ている間に御伽の国(闇)に迷い込んでしまった感覚。
人間を扱う見せ物小屋の描写や作品は、生々しくて見ていて辛いものがあるのが常だけれど、ナイトメアアリーの見せ物小屋は、この世ではないあの世というか、別世界というか、まさに悪夢の中のような感じがしてどこか不思議と惹かれるものがありました。そう言った雰囲気の作り方もデルトロ監督ならではの魅力だったと思います。

●多くを語らない演出

多くを語らない、明言されない構成がとにかく美しい。
そもそも、最初のシーンにしたって、突然死体(とも明言されていない)を穴に埋め、家ごと燃やしてそこを後にするイケメンのシーンから始まる。このイケメン誰。誰か殺したの?この家何?何があったの?
最後まで言葉でそれが語られることはないのですが、見た人は皆同じ過去や背景のストーリーを想像すると思います。
多くを語らないストーリーはストレスや不足感と表裏一体ですが、ナイトメアアリーに関しては無駄な尺や冗長さを全て排斥して、見せる必要のあるシーンに集中させる効果もあったと思うし、それに加えて、要素要素から語られない部分の真実が頭の中で組み上がっていく、自然と考察させられてしまうような楽しさもあって美しすぎる。どうしたらこんな映画が作れるんだろうと、思ってしまう。プロの監督でも、どれだけ勉強した人でも、こんなに美しい映画を作れる人がどれだけいるかなと思ってしまいました。

●ブラッドリークーパ

完全に個人の趣味嗜好なのですが、ブラッドリークーパにやられました。
優しそうで、紳士的で、誠実そうなのに、明らかに欠落していて、クズ。健康的で、不健康的で、肉肉しく、綺麗で、汚い、こんな役者さんが、デルトロ監督の作った悪夢のようなファンタジックな世界で、泥に溺れるように追い詰められていく様が……刺さらないはずがなかった。
ブラッドリークーパが、この映画の魅力の要になっていると言っても過言ではない。素朴で妖艶、見れば見るほどに引き込まれる魅力はなんだろう。スタンの役は、ブラッドリークーパだからどこまでも説得力があった気がします。ナイトメアアリーのブラッドリークーパー、忘れたくない。

【参考】

https://filmaga.filmarks.com/articles/158963/

解説と考察
考察が一歩も二歩も踏み込んでいる感じがして面白い

https://momo-rex.com/nightmare-alley-2021.html#index_id1

感想もまじえたあらすじと考察
映画をよく見て考えている人の意見は面白い

https://tolkoba.com/movie/nightmare-alley/#index_id6

この映画の解答編っていう感じの内容
語られていない部分を、なるべく映画内に出てきた情報をつなぎ合わせて、綺麗に説明している
絶対の正解ではないかもしれないけど、これが正解だって確信できる説得力がある
かつきよ

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