もものけ

スイング・ステートのもものけのネタバレレビュー・内容・結末

スイング・ステート(2020年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

大統領選挙の民主党陣営でキャンペーンをするゲイリーは、危ぶまれる票を獲得すべく注目した農村部であるウイスコンシン州で、You Tubeでバズる町議会での動画を見つけ行動を開始する。
これで民主党の勝利を確信するゲイリーは、wi-fiも整備されていない田舎町が、まさか苦戦の場になるとは思いもしなかった…。






感想。
アメリカ大統領選挙のウイスコンシン州を舞台に、民主党の選挙戦略をコミカルに描いたコメディ・ドラマで、国家が都市部と農村部へ掛ける投資予算と開発が、偏り過ぎている現状を皮肉的に風刺しているので、"切り捨てられた過疎地"の人々の暮らしを通して訴えかける内容にもなっております。

選挙活動とは無縁で、民主党と共和党に分かれて決まった地域の有力者が、選挙することなく町長になるのが慣例の地域で、DCのバリバリの選挙対策委員が繰り広げる活動と町民の温度差がシニカルに表現されております。
観客へ選挙活動と選挙対策とはどういうものかということを、物語を通じて宣伝するキャンペーン映画でもあるので、観客という国民へ選挙というものへの関心を植え付ける狙いがあるような作品でもありますが、なかなかコミカルさを出しながらも細かい演出で知ることもできる教育的娯楽作品ともいえます。

本来は、都会者といえばローカル者には嫌われる立場ですが、街の英雄を応援するプロフェッショナルという設定で、知識のない人々を率いて段々と強くなってゆく展開は、アメリカ映画のスポコン作品によくある手法ですが、これを選挙活動にしている斬新なアイディアです。

表現にケチをつけて互いに皮肉的に罵り合う選挙対策委員二人のキャラクターは、大統領選挙討論会を模写しているようで可笑しくあります。
選挙活動とは"イメージ"であり、大袈裟すぎる"イメージ"戦略に大金を使って、過剰に熱を煽るアメリカの必死でおかしな選挙が、滑稽で皮肉的ですが、"勝てば官軍"になる議会議決を担う"力"が得られるものとなると、何が何でも勝ってやるというなりふり構わない人間性がよく現れています。

邦題「スイング・ステート」"激戦州"という作中で話される表現になっておりますが、原題は”Irresistible”で、”抵抗できない""抑えられない"などの意味もありますが、ゲイリーがジャック大佐へ異常なまでの期待をしている様子から"魅力的な"という意味を表しているのでしょうか、そのまま原題のタイトルでも良かった気がします。

農村部の大佐の家にはライフルが3丁が飾られて、キャンペーンでもアメリカの正義を大佐の機関銃で表現するなど、まさに全米ライフル協会を支持する民主党を皮肉っております。
さらに億万長者エルトン・チェンバーズが強化ギブスと音声変換装置で登場する、悪趣味なブラックジョークがなんとも。
そして、人種のるつぼというアメリカを象徴するかのように、様々な人種、組織、思想などが次々と巻き起こる問題に絡んで、ジョークなのか本気なのか、訳のわからないアメリカの不思議な人権愛護をシニカルに描いております。

このあらゆる"層"から有利になる票を得るために、よく考えもしないでなりふり構わずキャンペーンを繰り広げて、やってる本人達すら分けが分からなくなるお祭りのような熱病と、"嘘"も突き通せば"本物"になるというモラルなどクソくらえな選挙対策委員の姿が、滑稽に描かれていて面白いです。
ほとんどヤケクソなのが笑えます。

キャンペーンが多種多様になり過ぎて、趣旨すら失ってそれぞれが主張をする場と化してゆくなかで、神輿に担ぎ上げられた大佐は初心の信念を語らずゲイリーの用意した文書を話すだけのお飾りとなり、町に活気をと参加した人々を取り残して、どんどん加速してゆきます。
よく見ると分かるのですが、オープニングで歴代大統領の映像がメタファーとなっています。
この作品は小さな町を舞台にした、民主党と共和党の選挙戦を描きながら、アメリカ大統領選挙を風刺したシニカル作品なのです。
担ぎ上げられた神輿のお飾りは、当選しても主張がなく、顧問の文章朗読機となるだけで、周辺に達成感に満足して酔いしれてポストを貰ったおべっか使いだけが残り、そうして踊らされながら任期満了を待つだけです。
これがアメリカ民主主義の実態だと言わんばかりに、コミカルながらも痛烈に批判している大統領選挙というものを描いています。

しかしこのメタファーは奥深く込められていて、ラストではゲイリーは町の活気を取り戻すように利用されただけという、皮肉を逆手に取ったどんでん返しが待っていて、そこも斬新な設定でした。
メタファーを込めながら、作品内容で利用したオチをもって、逆に痛烈に批判しているのがよかったです。

ありえない庶民の反乱と叫びを物語でハッピーエンドで締めくくるのは、映画という表現方法を利用したアイディア。
これ以上の搾取は、いつまでも黙ってはいないぞという思いを、選挙活動の腐敗への批判に込めて、娯楽作品にしております。

大ドッキリでやられてしまった連邦議会と、負けない市民達に希望が溢れる作品へ、4点を付けさせていただきました!
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