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ファーザーのkoyaのレビュー・感想・評価

ファーザー(2020年製作の映画)
4.5
認知症を描く時、ありがちな悲惨とか美談にせず、描く立場を逆転させることでミステリやサスペンスのように感じてしまうその発想の上手さに感動しました。

もちろんアンソニー・ホプキンスの熱演、好演もあるのですが、映画はずっと81歳のアンソニーの立場から描かれます。

介護するのは長女なのですが、言う事が変わる、独身かと思えば夫がいるという。
自分の家で一人で暮らせるからいい、と言っても違うようだし、真実は何?というミステリに近い形になっています。

昼間、看護をする看護人は毎日違う。
会ったはずの看護人と違う女性が来る。
チキンが好きだから、覚えている食事はチキンばかり。
頭の中に残っていることが繰り返しでてくる。
一体、真実とは何なのかわからない。

それがひとつの物語となって観客を謎に誘うという点、上手いと思うし、カメラワークもアンソニー・ホプキンスをくまなく映し、それに応えているのはさすが名優だと思います。

アンソニーが記憶が薄れていくことを
「葉がすべてなくなるようだ」
と言います。

一本の木の葉がひとつの記憶ならば、それが一枚一枚落ちていく。
ラストシーンの豊かな緑が印象的。とても美しく哀しいけれど、後味は悪くないのです。
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