ひこくろ

RUN/ランのひこくろのレビュー・感想・評価

RUN/ラン(2020年製作の映画)
4.5
嫌な感じと怖さが満点の映画だった。

主人公は下半身麻痺で車椅子生活、母親がいなければ生活もできない。
その母親が自分を殺そうとしているのかもしれない、というのは恐怖でしかない。
しかも、家にはクロエと母親しかいないのだから、怖さは倍増する。

当然、彼女はどうにかして逃げ出そうと試みだす。
しかし、不自由な身体がそれを許さない。
母親にとって、彼女を監禁してしまうのは簡単だ。
部屋に鍵をかけ、扉を堅く閉めさえすれば、彼女は逃げられない。

逃げ場のないなかで、殺される疑念だけが高まっていく。
この恐ろしさにもゾクゾクとさせられる。
クロエは身体を投げ出し、必死に逃げようと試みる。
でも、やっと逃げ出せても、喘息の発作が始まってしまう。
この緊張感がさらに拍車をかける。

愛する家族に殺される、というたまらなく嫌な感じ。
そして、愛する家族だからこそ感じる恐ろしさ。
この二つが絡んでくるのは、ホラーとしてとても上手い。
唯一、気になるのは動機がいまひとつわからないところ。
十数年も手間を惜しまず愛して育ててくれた母親が、なぜ急に娘を殺そうとするのか。
ここだけずっと気になってモヤモヤしていたが、後半の展開で謎解きがされ、すっきりとした。
と同時に、これまでとはまったく違う恐怖が浮かび上がってくるのには、息を呑んだ。

母娘の愛憎劇としても、監禁ものとしても、サバイバルとしても捉えられる。
なにより、ホラー(スリラーと言うほうが正しいかもしれないけど)として秀逸。
エンドロール後の圧倒的な後味の悪さも、ホラーとして満点だと思った。

素晴らしく怖い。
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