統一前の東ドイツ。心臓発作で倒れた母親が、ベルリンの壁崩壊を知らぬまま昏睡状態へ。
自宅に引きとった息子は、意識が戻った母にショックを与えぬよう、社会主義体制がまだ続いているかの様な”芝居”を続ける…。
主人公の青年が母を思う気持が強く伝わってくる。彼女に刺激にならぬよう、部屋のインテリアや衣服、食品などを東独時代の物に揃えようと苦心するくだりなどほほえましい。
東西ドイツの統一は、特に東側の市民にとってはアイデンティティを揺るがすような、トラウマになりかねない大転換だったことだろう。
そんな彼らにとっては、劇中の母親の様な”昔のままの(=変わらない)”姿というのはホッとする存在であり、新しい時代へ移る際の緩衝材(クッション)のような役割を果たしてくれたのではないだろうか。
病気のおかげで家族の絆が逆に強まる…というニンゲンの不思議なたくましさの好例でもある。
母親が優しき息子の”嘘”にもしかしたら気づいているのかもしれない、という含みを持った描き方に味わいがある。
国家や歴史の変遷と家族のドラマをうまく組み合わせた、記憶に残りそうな佳作。