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ヴァスト・オブ・ナイトのナーオーのレビュー・感想・評価

ヴァスト・オブ・ナイト(2019年製作の映画)
5.0
"ようこそ、パラドックス・シアターへ"

1950年代のSFに愛を込めた大傑作。

1950年代のSFファンやトワイライト・ゾーンが好きな人ならニヤニヤしてしまう映画でした。SF映画ですが、ロボットとか宇宙船が出てくるアクション大作でなく、本作は基本的に"会話劇"です。特に前半20分ほどはひたすら会話。50年代の人々が思い描いていたであろう未来像(自動運転の車や真空状態のチューブを用いた高速輸送システム、スマートフォン)などについて主人公の少女とラジオDJの男がひたすら話すだけ なのでここで退屈と感じる人も少なからず居ると思いますが、僕はその会話劇に夢中に。そしてそこから始まる怒涛の展開にはもう目が釘付けに。

ワンカットではないですが、あまりカットを切らずにリアルタイムで物語が進んでいくので、鑑賞中、(一体何処に連れていかれるんだろう) というゾクゾクするくらい没入感が凄かった。前半は未知の何かにドキドキ。後半からは謎を追う主人公たちにワクワク。ここまで画面に夢中になった映画は久しぶりでした。

また50年代のSFのオマージュが多く、もろにトワイライト・ゾーンな演出やあえて"空にいる何か"を映さないところはスピルバーグ映画へのリスペクトを感じます。またラジオで情報が錯乱して主人公たちがパニックになるところは1938年のオーソン・ウェルズのラジオ版宇宙戦争(実際のニュース放送のような形で放送され、多くの市民が本当に火星人の侵略してきたと思い込み、アメリカ各地でパニックが起きた事件)を連想しました。

監督を務めたアンドリュー・パターソン。
画面に溢れる50年代の映像手法やフレッシュな編集、そして長回し。もう飛び抜けたセンスの持ち主だと思いました。しかも、本作『ヴァスト・オブ・ナイト』が長編初監督作品。

このアンドリュー・パターソンという若きカルト監督の名前は絶対に覚えておきたいです。素晴らしいデビュー作だと思います。

個人的には2020年ベスト映画の1つになりました。
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