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国葬のefnのレビュー・感想・評価

国葬(2019年製作の映画)
3.9
 スターリンの遺体を囲む人民の群れ、葬列、葬列、人民の葬列。花束を持つ人、花輪を掲げる人、肖像画を運ぶ人、そんな人々の列が延々と続く。一時間ほどして追悼のためのチャイコフスキーの演奏がはじまり落ち着いたか、と思った次の瞬間には軍人の行列がはじまる。軍人の列が終わったか、と思えばまたまた人民の花束が、花輪が、肖像画が、群れとなって現れる。
 恐ろしく退屈だ。しかし、これこそが全体主義の本質なのだろう。人民すべてが同じ方向に向き、一斉に笑い、一斉に泣かなければならない。親や子が粛清の犠牲に、戦友が大祖国戦争で死んでいたとしても、例えスターリンを殺したいほど憎んでいても泣かなければならない。もちろん、何の関わりもない政治指導者の葬儀に参加し、退屈する我々のような観客も含まれる。(ハンガリーやポーランドにとっては特にそうだっただろう)この映画は体制がもたらす怠惰な時間感覚、奇妙な視線の一致を軸に強制された歓喜を見事に切り抜いている。
 終盤の弔砲を聴いて手を止める労働者、車輪を止めて汽笛を鳴らす機関車、宙を舞いトラッキングするスターリンの肖像画は中断が効果的に用いられていて面白かった。プロパガンダ用の演出ではあるが、きちんとフィクションらしくなってる。
 ただ音周辺の演出は最悪。旗が風に揺れたから風の音、自動車が来たからエンジンの音、ポスターを貼るためにノリを塗ったから筆の音、みたいなSEが始終鳴っている。素材のコンセプトを隠すためにわざとやっているのかもしれないが、それなら対位法なりモンタージュの方法はあるわけで、映像をただ同義反復するような音の付け方は愚かだ。
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